連載「lit!」第23回:柊キライ、晴いちばん、Shu、フロクロ……『ボカコレ2022 秋』に見るボカロシーンの潮流

 2020年12月に第1回を開催したボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection』(ボカコレ)。前夜祭となった10月7日から10日までの期間、その第5回となる『The VOCALOID Collection ~2022 Autumn~』が開催された。ベテラン、ルーキー問わず、様々なボーカロイド楽曲が投稿されたこの秋の注目作をいくつかピックアップする。

柊キライ「アワーグラス」

アワーグラス

 柊キライが投稿したのは「アワーグラス」。1音ずつ低く響く鍵盤の音色というシンプルな導入でありながらその音像には存在感があり、聴くものをはっとさせる。間奏でくぐもった音色で登場する弦楽器もミステリアスだ。その後もどこかエスニックな雰囲気やトラップ、ダブステップなどの影響も感じさせるリズムにflowerの冷淡な歌声がのっており、ひたすらカオスでダークな世界が広がっている。MVでも、記号のような言語が登場したり、ビビッドでサイケデリックな色使いがされているなど、全体を通して不可思議。そんな異質さに目が離せない3分強となっている。

 前作「フラワーベッド」はラウドロックを彷彿とさせるバンドサウンド、「ファラウェア」は軽快なフレーズを奏でるキーボードが可愛らしくも影のある音像と、楽曲ごとに曲調をがらりと変化させながら、どこかダークな世界を描写していく柊キライ。今作も豊富な引き出しを使ったジャンルの融合によって、中毒性ある楽曲を生み出した。

晴いちばん「ワンダールインズ」

ワンダールインズ / 晴いちばん feat.初音ミク

 15歳のボカロPとして注目を集めている晴いちばんの新作「ワンダールインズ」も『ボカコレ2022 秋』の時期に合わせて公開。ドロップを取り入れた構成やKawaii future bassの影響を思わせる効果音は軽快で、ダンスミュージックの流れを大胆に取り込んでいる。一方でMVでも描かれている物語性のある歌詞や展開の細かさ、抑揚のあるメロディラインはJ-POPやこれまでのボカロ曲の潮流も感じる。ダンスミュージックを取り入れたボカロ曲としてはもちろん、ドラマチックな物語性を楽しむ従来のボカロ曲としての色合いも強く、その聴き馴染みのよさが癖になる楽曲だ。

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