Weezer、ダンスロックを通して描く“孤独と愛” 『SZNZ : Autumn』が原点回帰であり真骨頂である理由とは?
今年で結成30周年という大きな節目を迎えたにも関わらず、Weezerの勢いが止まらない。
年始に公開されたバンド独自のストリーミングサービス「Weezify」(※1)で聴くことができるデモ音源のとんでもない物量(数千曲)が示す通りに業界きっての働き者として知られる彼らだが、それでもここ数年の怒涛のリリースラッシュには圧倒されるばかりだ。2019年にアルバムを2枚(『Weezer (Teal Album)』、『Weezer (Black Album)』)、2021年にはさらにアルバム2枚(『OK Human』、『Van Weezer』)を発表。今年は「SZNZ / シーズンズ」と題して季節ごとに7曲入りのEPをリリースするという企画を進行中だ。それぞれの作品が全く異なるベクトルを向いていることからも分かる通り、今のWeezerはクリエイティビティが止まらない覚醒状態に入っていると言って良い。「SZNZ / シーズンズ」における「7曲入りEP×4枚」というスタイルは、もはや今の彼らにとって、アルバムというフォーマットではあまりにも窮屈すぎるという思いの表れなのだろう(ちなみに、EPごとにヴァイナル盤限定のボーナストラックが存在するため、厳密に言えば「8曲入り×4枚」である)。
その大胆な試みが正しいものだったことを証明するかのように、すでに春、夏、秋と3作がリリースされており、それぞれが見事に独立したユニークな作品が生まれている。第一作となる『SZNZ: Spring / シーズンズ:スプリング』(3月20日配信リリース、7月6日国内盤CD発売)では、近年の彼らが力を入れているクラシックの要素を巧みに取り入れた、まさに春の訪れを想起させるような爽やかな仕上がりとなっていた。続く『SZNZ: Summer / シーズンズ:サマー』(6月21日配信リリース、8月3日国内盤CD発売)は、ハードロック/メタル成分を大幅に強化した、夏の暑さをさらに駆り立てるような重厚でゴージャスな楽曲が詰まった一枚だ。
そしてこの度、11月23日に国内盤CDがリリースされたのが、シリーズ三作目となる『SZNZ : Autumn / シーズンズ:オータム』(9月22日配信リリース)である。本作における方向性は、フロントを務めるリヴァース・クオモ曰く「ダンスロック」。そう聞くと、何となくポジティブな作品になるのではないかと予想されるが、アートワークに目を向けてみるとゴシックホラーを彷彿とさせるダークで物々しい仕上がりだ。今回もまた、蓋を開けてみるまで、一体どんなサウンドに仕上がっているのか分からないワクワク感を味わわせてくれる。
ひとくちに「ダンスロック」といってもその言葉が示す方向性は様々だ。今作でWeezerが選んだ音楽性をより正確に捉えるのであれば、リヴァース自身が参照元として挙げているFranz Ferdinandや(特に近年の)The Strokesがそうであるように、70年代/80年代のニューウェイヴからの影響を色濃く反映した、キャッチーなリフやメロディが牽引する、ポップな捻りの効いた踊れるロックサウンドということになるだろう。そのルーツを辿ると、Weezerにとっての「育ての親」でもあるThe Carsに辿り着く。かつてリック・オケイセックが彼らの1stアルバム『Weezer (Blue Album)』(1994年)のプロデュースを手掛けたことを踏まえると、今作の作風は、ある種の原点回帰であるとも捉えることができるのではないだろうか。
それを象徴するように、本作の1曲目を飾る「Can’t Dance, Don’t Ask Me」は、超キャッチーな単音のシンセサイザーのフレーズやソリッドなギターフレーズと共に、性急な8分音符のリズムに合わせて疾走する、まさにニューウェイヴ直系の踊れるロックに仕上がっている。ただし、あくまでバッキングギターの音色は分厚く歪んだWeezerらしいパワーポップ仕様であり、歌詞に耳を傾けてみると「僕は踊れない、誘わないで」と歌っているという、こちらも「らしさ」を感じさせる捻れた構造だ。今作における音楽的挑戦と、良い意味で変わることのないWeezerらしさを同時に楽しむことができる、理想的なオープニングナンバーである。
ニューウェイヴとパワーポップをミックスしたポップな音像の中で、どこか捻れた感情を描くという今作の方向性は、続く「Get Off On The Pain」でより顕著に表れる。聴き手を圧倒するようなヘヴィなギターリフと、目の前の景色が開けたかのようなパワーポップの爽快感、素朴でありながら歌いたくなってしまうリヴァースらしい良質なメロディのコントラストが楽しい本楽曲は、充実した本作の中でも特に筆者のお気に入りだ。だが、聴けば聴くほどに、中盤に配置されたシンセサイザーの不吉な音色と、中世の魔女裁判を想起させるような描写や「痛みを楽しんでしまう」というフレーズを繰り返すダークな歌詞のムードが気になって仕方がなくなってくる。ポップなサウンドを逆手に取って、お馴染みの皮肉っぽいトーンよりも、一層に深い絶望を描いているように思えるのだ。
だが、本作で描いているのは絶望だけではないようだ。深みのあるシンセサイザーの音色によってダークなバラードの始まりを想起させる冒頭から一転し、サビではソリッドなギターとクールなメロディによって狂乱のダンスフロアへと変貌する「What Happens After You?」や、ザラついた質感のギターの弾き語りを起点としながらも、やがてキラキラとしたシンセサイザーの音色と共に突き抜けたポップソングへと発展していく「Francesca」では、絶望と混乱の渦中で破滅に向かいながらも、ある一人の相手に対して熱烈な愛情を抱いている人物の姿を確認することができる。本作で最も優しい手触りを持つ「Should She Stay or Should She Go」では、一人ぼっちでエデンの園に取り残されてしまった主人公が、彼女を追うべきか、それとも自分の人生を歩むべきかを神様に問いかけている光景が描かれる。どの楽曲においても、そこには強い孤独感と、愛情に対する渇望が存在しているのだ。
今作が描く「秋」という季節は、夏の楽しさが徐々に失われていき、肌寒さと共に寂しさを感じるようになっていく時期だ。だからこそ、Weezerは最高に踊れる音楽の中で、壮大なモチーフを用いながら、彼ら自身にとっても最大のテーマであろう孤独と愛を本気で描くことに決めたのではないだろうか。