連載「lit!」第23回:柊キライ、晴いちばん、Shu、フロクロ……『ボカコレ2022 秋』に見るボカロシーンの潮流

Shu「創作性シンドローム」

創作性シンドローム | Shu feat. 初音ミク×巡音ルカ / Creator Syndrome - Shu feat. Miku Hatsune & Luka Megurine

 今回の『ボカコレ2022 秋』で見事ルーキーランキング2位を獲得したのはShu。初音ミクと巡音ルカが歌う「創作性シンドローム」は爽快なロックチューンだ。これまでも、ボーカロイドが歌うバンドサウンドの楽曲は“ボカロック”として長きに渡って親しまれてきた。「創造性シンドローム」も1サビの終わりまでは2人の歌声とギターの音色が疾走感を生み出す典型的なボカロックのひとつだが、間奏でその印象を変化させる。ブレイクビーツが鳴り響いたかと思えば曲調を変え、〈何がポップロックHiphopどれがDope〉〈かたや意味あり気にダークを歌おうか〉と続くフレーズは、ジャンルを越えて自由に創作をするという宣言にも思える。その部分だけ変化する曲調も相まって、一石を投じるような歌詞にインパクトのある1作だ。

フロクロ「流転光速」

流転光速/重音テト + 足立レイ(light speed drift / Kasane Teto + Adachi Rei)

 UTAUの重音テトとA.I.VOICEの足立レイの歌う、フロクロ「流転光速」もリスナーの度肝を抜いた。ディレイのかかったシンセサイザーの織り成す幻想的な雰囲気と、重音の歌声が奏でる押韻の心地いいフレーズから成る導入はほんの序の口。ビルドアップののち〈流転光速〉とタイトルを口にしたのをきっかけに、高速のローファイなブレイクコアが連なるパートで圧倒する。MVもそのリズムとともに文字が表示されるようになっており、その映像と音のリンクが気持ちいい。後半には足立による、リズミックかつ淡々とした早口言葉のような語りが入り、ブレイクコアとの温度感の差異も魅力的。アウトロにはさざ波の音や電話の音が入ったロ―ファイサウンドで穏やかな余韻を作り出しており、4分44秒で壮大な景色を見せるような楽曲となっている。

 ボーカロイドや音声合成ソフトを使った楽曲はこれまでも様々なジャンルのものが作られてきたが、最近は作曲するボカロP自身が多様な音楽に触れて育ってきたことでジャンル間の融合も進み、より作者の好みやそのときの興味が反映された楽曲ができあがることが増えているように思う。一方、今回の『ボカコレ2022 秋』でもネタ曲と呼ばれるようなユーモアたっぷりの「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」がTOP100ランキングの2位にランクインするなど、古くからのインターネットカルチャーらしい部分が変わらずにあるのもまた、ボカロ文化の魅力。次回の『ボカコレ』も自由な作品が次々と登場することだろう。

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