大森靖子、『超天獄』に込められたソロで楽曲を作る意義 「ニュースやトピックスにいつも踏み潰されてる感情ってなんだろう?」
“女っぽくない女”を狙ってやってるけど、まあ歌っちゃおうかなと思って
――(笑)。新作のトーンが、たとえば2021年のZOC『PvP』と異なると感じるのは、「天国ランキング」のように東京の日常をストレートに見すえている楽曲があるからじゃないかとも感じました。内省を重ねているというか。
大森:これはマネージャーに「君と映画」的な、自分の活動の根本をフラットな感情で歌ってほしいって言われて。私は「コンビニ系の曲」って呼んでるんですけど、そのオーダーがマネージャーから来たなって思ったので、じゃあ作ってみようと。そういうのはいっぱいあります。「魔法使いは二度死ぬ」とか。
――「魔法使いは二度死ぬ」もコンビニ系なんですか?
大森:「魔法使いは二度死ぬ」は、「魔法が使えないなら」とか「音楽を捨てよ、そして音楽へ」とかの系列。いろんな系列の人がいます。
――「東京のせいにして」で歌われる〈どんなメスよりあざとい / 嫌な生き方をしているな〉〈女よりもっと嫌なものを武器にしてるの〉という歌詞は具体的にはどういう生き方のイメージなんでしょうか?
大森:普通に自分のことをバーッと書いちゃって。“女っぽくない女”を狙ってやってるっていうのが、一番あざといじゃないですか。それをバレないようにしてるけど、まあ歌っちゃおうかなと思って。曲を聴くのがめっちゃ恥ずかしいです。
――それを言っちゃうのが大森さんのいいところですよね。続いて「衒想即興曲(げんそうそっきょうきょく)」。
大森:読める人、初めてでした。
――「げん」って入力しても「衒」に変換できないんですよね。オルガンの響きがゴスペルみたいだし、〈このくに このめで 見た文化 / 全て 全て ハッタリだ / 虚構というエネルギー〉という強烈な歌詞が出てきます。今の率直な感覚でしょうか?
大森:はい。すべて虚構です(笑)。
――でも、虚構っていうものが持つエネルギーも無視できないですよね。
大森:例えばライブで「ここで右手を挙げなさい」って言われて、右手を挙げているだけのものなんて嘘じゃないですか。「エアロビじゃん」って思って。
――あと、「ここで声を出せ!」って言われたから出す声とか。
大森:それでコロナで声を出せないとか、「別に出さないでよくね? 何なの?」って思っちゃう。
――2021年の「Rude」にも〈どうしても変えたい〉という歌詞が出てきましたね。社会をいきなり変えることはできなくても、1人ひとりリスナーの心は変えているわけじゃないですか。そういう手応えはありますか?
大森:うん、ありますね。「生きようと思いました」みたいなことを毎日言ってもらえるわけだから。けど、昨日今日生きようと思ったところで、別に明日も生きようと思えるとは限らないし、お互いが持続しないと何もならない。
――現実的だ。そしてタイトル曲「超天獄」の歌詞は、〈エセエモ縋りついた〉という冒頭からとんでもないですね。
大森:これをとんでもないとピエールにわかってほしかったんですよね、でもメロンの感想が正しかったのかもしれない、だとしたら悪いことをした(笑)。
――でも、私たちはこういう歌詞を聴きたいわけじゃないですか。しかも、冒頭のドラムはニューオーリンズのようで、ギターやキーボードにはフュージョンのような音色もあって、サウンド的にもかなり混乱させられました。
大森:これは「シティポップってなんだろうね?」って。「シティポップの人が本当にやりたいことは何だろう?」って思いながらやったのでは。
あれだけ炎上して、それでもまだ聴いてる人って「よっぽどだな」って(笑)
――「超天獄」の歌詞に込めたものって何だったんですか?
大森:私とsugarbeansさんの生きづらさ。
――sugarbeansさんも生きづらい人なんですか。
大森:不器用だからね。
――あはは。そういうことも込めているアルバムのタイトル曲で、サウンド的にもカオスだし、歌詞も情報量が多いと。
大森:これでMVを作るかどうか悩んで、結局やめたんです、難しいかと思って。それで「一番面白い映像を作ってもらえるのは何かな?」って考えて「VAIDOKU」でMVを作ることにしたんですけど。夫に「どう?」って聞いたら「売れる気あるの?」って言われましたが(笑)。
――今、梅毒が社会問題化しているので、厚生労働省から使いたいって言われるかもしれないですよ。そして、「VAIDOKU」のジャズから始まって、「最後のTATTOO」ではアルバムの最後でアメリカ南部に去っていくんですよね。
大森:今回、下剋上感が出てていいですよね。下克上ゴスペル感。
――〈最低な恋やトラウマを / 刻んできた身体だけが / 僕の自由なんだ〉と歌われますが、大森さんのファンも、大森さんの楽曲を聴くことで最低な恋やトラウマを乗り越えて生きている人が多いと思うんですよ。
大森:あれだけ炎上して、それでもまだ聴いてる人って「よっぽどだな」って(笑)。「ありがとう」って気持ちが強すぎて。それってすごい信念じゃないですか。私の大ファンだった人からも「自分のために二度と大森さんとは関わりません」って表明されたことがあって、「私はそうしないといけないレベルの人間になっちゃったんだな」みたいに思ったんで。それでも、「大森靖子を聴いてますが何か?」と堂々と主張してくださる人もいて、「すごいな、ありがとう」と思います。
――アルバムを4日間でレコーディングしたのも、言い換えるとレコーディングする前はどういうアルバムになるかわからなかったわけじゃないですか。完成してどうですか?
大森:すごく好き。ライブでやるためのアレンジにした部分があって、自分はこれで表現していくときにすごくいいなと思うんですけど、みんなどんな風に切り替えるんだろう? 『MUSIC MAGAZINE』の読者は好いてくれると思うんですけど。刺しにいくみたいな、衒ったことを別にやっていないので。
――これを作って、大森さんが「衒ったことをやっていない」と言い切るのがすごいんですよ。
大森:そうですか?
――ちなみに「VAIDOKU」のMVについて「売れたいの?」と聞かれたとき、なんて返事をしたんですか?
大森:「あたりまえじゃーん、本当に売れたくて書いてるよ」って答えました。でも、「売れる」のが何かと言われたら本当にわかんなくなっちゃいそうですよね。テレビに出るのが目的ではないなと思います。出られるに越したことはないと思うけど。
――今そういうなかで何を目的としてやってるんですか?
大森:やり続けること。しつこく。こういう人が居続けること。今、こういう人がいないから。いないとまずい、偏りすぎますからね。
■リリース情報
大森靖子「超天獄」
10月12日(水)先行配信
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大森靖子サイン入りチェキを1名様にプレゼント。応募要項は以下の通り。
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<締切:11月11日(金)>