大森靖子、『超天獄』に込められたソロで楽曲を作る意義 「ニュースやトピックスにいつも踏み潰されてる感情ってなんだろう?」

大森靖子、ソロで楽曲を作る意義

「こんな意図がある人が告発してるかもしれないよ」って曲を作ろうと思った

――さらに、sugarbeansさん、山之口理香子さんとの即興による『超自由字架ツアー2022』は強烈でした。あのツアーが『超天獄』に影響した部分も大きいでしょうか?

大森:あれをバンドでやりたいっていうアルバムですね。

大森靖子『VAIDOKU』Music Video

――なるほど。1曲目の「VAIDOKU」は、いきなりジャズで驚きました。しかも、ジャズと歌モノを行き来しています。sugarbeansさんとはどうイメージを共有したのでしょうか?

大森:デモでべースリフみたいなものを私が書いてたので、それをsugarbeansなりに読解するとああなったというか。千ヶ崎さんが自分の身体にないベースを弾いているので、私もすごく力んで、初めて聴いた時私がちょっと恥ずかしくなっちゃいました(笑)。それが1曲目っぽくていいかなと思いましたね。

――今回、ソングライティングの期間はどのぐらいかかったんでしょうか?

大森:前もって作らなきゃって思ってたんですけど、この時期もいろいろあったんで(笑)。

――(スタッフのiPhoneに表示されたデモ音源の完成日のリストを見て)3月から5月に畳みかけるかのように作ってますね、「TOBUTORI」「東京のせいにして」「衒想即興曲」なんて、レコーディング前日の5月30日ですし。大変な時期と言えば、「告発」はネットで告発をする側の感情をあえて想像してみたのでしょうか?

大森:そうです。告発ってみんな真に受けるじゃないですか。それって怖いことだなと思って。なぜネット告発をするに至ったかって、みんなちゃんと考えてないから真に受けるわけで。よくよく聞くと「そんなことのために?」っていう理由の告発もたまにあったりするじゃないですか。告発しない人には、そうしない事情もある。そういうものは誰も汲まずに告発の内容の派手さだけで、いろんなことが言われがちなので「こんな意図がある人が告発してるかもしれないよ」って曲を作ろうと思ったんです。

――新曲について聞いていくと、「魔法使いは二度死ぬ」にはラップのパートがあるじゃないですか。しかもオールドスクールなラップではなくて、フロウが今のラップですが、ラップは聴いてるんですか?

大森:聴かないです(笑)。

――あはは、なんでラップを書けるんですか?

大森:でも、「こうやる」みたいなルールは一応知ってるじゃないですか。それをちょっとやってみただけ。

――まるごと1曲ラップ、というのはやる気はないですか?

大森:楽しそうですけど、ちょっと歌詞が多すぎるかも(笑)。

ピエール中野との喧嘩で生まれた曲も

――たしかに「魔法使いは二度死ぬ」の歌詞だけでもすごい文字量ですし(笑)。「TOBUTORI」には、〈私はこんな名前で生きてゆく〉とありますが、“炎上しない夏”を過ごしたことも関係しているでしょうか?

大森:夫のピエール(中野)と超喧嘩したんですよ。私が「曲だけ好きみたいなこと言われた」ってグチグチ家で言ってたら、「そんなに嫌なら歌詞を書くときだけ名前変えればいいじゃん」って言われて、「何言ってんだよ!」みたいな(笑)。それの名残な気がします。

――夏に炎上しなかったことで、Twitterにトレンド入りしても「靖子ちゃん」「大森さん」と敬称が戻ったと書いていましたね。いかに炎上がつらかったかという。

大森:本当に怖かったですし、嫌でしたね。普通に傷つきます。一日300件「ブス」って言われると、「ブスなのかな?」みたいな(笑)。

――そりゃそうなりますよね。「×〇×〇×〇ン」は何て読むんですか?

大森:「メロメロメロン」です。

――重すぎる愛情の曲ですね。

大森:「×〇×〇×〇ン」でも喧嘩してて。

――あはは、なんでですか?

大森:「超天獄」を作ったときに、ピエールが横で、私が買ってきたメロンを切って食べてたんですよ。曲がちょうど終わったタイミングで「メロン美味い」って。「あれ? 曲の感想とかないの?」って、ちょっと求めちゃったんですよ。そしたら「世田谷の人がかわいそう」って言われて。

――「超天獄」の歌詞に〈世田谷なんか住んでたまるか〉ってありますもんね。

大森:スタッフにそういうことを言われるんだったら「まあ、たしかに」と思うんですよ。でも、それって感想じゃないじゃないですか? 厳密に言えば、「そんなこと言って大丈夫?」って話で感情じゃないから、すごくムカついて「なんだよ」と思って、10分ぐらいで「×〇×〇×〇ン」を書きました。「このアルバムの中で、ただかわいいだけの曲を書けばいいんでしょう、そんなのいくらでも書けますよ」って思って。

大森靖子『前説ADvance』Music Video

――でも、夫婦喧嘩の結果、アルバムの中にこういう甘酸っぱいポップスが1曲入ってるって素敵なことですよね。「前説ADvance」は、YouTubeチャンネル「街録ch」のディレクターである三谷三四郎さん人脈にしろ、よくあんな豪華キャストのMVが実現しましたね。

大森:すごいですよね。大島(美幸/森三中)さんも覚えてくださっていて、「名前を見るたびに応援してたんだよ」って言ってて、「私の名前を見る機会なんてきっと炎上してるタイミングだし申し訳ないな、心配かけたんだな」って。

――「前説ADvance」は、〈本編はこれから〉とストレートに前向きな歌詞で驚きました。

大森:三谷くんの「街録ch」を踏まえて書いた曲なんで。初めて「街録ch」のリアルイベントをすることが決定したときに聞いたんですけど、三谷くんはAD時代に前説がうまくいったことがないらしいんですよ。「うまくいかせたいから、イベントの前説で歌う曲を書いてください」って言われて。そしたら「MV作りたいと思います、ぜひ歌ってください」っておっしゃってくださって、「じゃあアルバムに入れていいですか?」って。

――歌詞に〈社会性認知バイアス〉という単語が出てくる曲は、J-POPで初めてじゃないですか?

大森:ちょっとリズムを詰めるところなんで、何言ってもバレないかなと思ってて。

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