連載「lit!」第22回:ID、Kojoe、Skaai、ONENESS、STUTS……ラップとトラックの相性で独自性を獲得する国内ヒップホップ5作

 音を言語化するのは難しい、とよく言われる。確かにそうかもしれない。それは目に見えないからか、あるいはある種の抽象性、概念性を持ち合わせているからか。しかし、そんな言葉に詰まる我々を尻目に、ヒップホップのサウンドの多様化は進んでいく。バラエティに富んだ楽曲たちは、シーンに散らばりながら、挑戦を、あるいは伝承を、多様な形で実践していく。何を歌い、どう打ち込むか、または奏でるか。ラップとトラック、言葉と音、ビートと感情の関係性の豊かさを、何よりも見つめたい。今回の「lit!」では、多彩なサウンドで魅せる、直近にリリースされた国内ヒップホップの新作を5作紹介する。

ID『B1』

 暗闇か、または地下か、少なくとも光が当たる場所から鳴っているとは思えない。それは唸り声のようだが、確かにリズムを刻む。その声は、闇を纏いながらも、踊り続け、重なり合う。『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)では3代目モンスターに抜擢されるなど、一時はMCバトルでも名を馳せたラッパー IDだが、ダンスフロアの音楽が復権を示す2022年にリリースされた1stアルバム『B1』は、今年のヒップホップアルバムのダークホースではないだろうか。先日MVも公開された、アルバムの幕開けを飾るタイトルトラックは、凶暴でダークなディープハウスであるが、何よりもID自身の声質と楽曲全体のリズムが不思議な化学反応を起こす異色作となっている。声による遊びが、激しいアルバム全体をある種象徴するようなこの楽曲は、声と音、リズムに関する確かな感覚を持ちながら、異質が故に、危険なほどの中毒性を携える傑作である。

ID - B1 (Official Video)

Kojoe「good day feat. MONJU,  ISSUGI, 仙人掌 & Mr.PUG」

 忙しない世界と日常を癒すこと。あまりにもポジティブなバイブスで、ヒップホップのピースフルな側面を前面に出す、新潟県生まれ&NYクイーンズ育ちのラッパー Kojoeによる清々しく軽快な最新曲。生活の肩の荷を下ろすことを促すような、MONJU(ISSUGI、仙人掌、Mr.PUG)それぞれのヴァース、ラップの安定感はもちろん、Kojoeによるタイトでメロディアスな持ち味を活かしたトラック、そして歌心に満ちたフックが、より開放的な感触を携える。そのシンプルさを極めたような作りは、情報量の多さ、ハードさやハイコンテクストとはまた別の豊かさを獲得しており、流動的なシーンの中で、これほどリラックスした空気(むしろ“リラックスすること”そのものがこの曲のテーマとすら言えるかもしれないが)を、純粋に醸す作品の希少性にも気づかされる。

Kojoe「good day feat. MONJU,  ISSUGI, 仙人掌 & Mr.PUG」

Skaai「FLOATING EYES feat. Daichi Yamamoto」

 オーディション番組『ラップスタア誕生』(ABEMA)にて応募総数2546人中から上位に選ばれ話題になったラッパー Skaai。その1st EP『BEANIE』には数多くの展開があった。ビートスイッチにメロディアスな側面、一筋縄ではいかないフロウの転換。その中でDaichi Yamamotoと共演する本曲は、それぞれのアーティストとしての葛藤を写した内省的なリリックと、抑制を効かせながらも、予想斜め上を行くような感情的な展開が特徴的な楽曲となっている。2人のラッパーの途切れないフロウによる独白。uinによるトラックは、重々しくもなりそうな楽曲を、音の出入りも含めた適度な遊びを加えながら、あくまでもディープに演出。『BEANIE』の静かでコンセプチュアルな着地としても、唯一無二の後味を残している。

Skaai - FLOATING EYES (feat. Daichi Yamamoto) (Official Audio)

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