w.o.d. サイトウタクヤが掴んだ、“本当に歌いたいこと”への確信 曲作りやレコーディングの進化で広がったバンドの可能性
「大切なものを探していたけど、実は持っていたことに気づけた」
ーー1曲前の「Sunflower」で〈たしかに この胸に 心をくれた 君がいた〉と歌っていて、喪失を経て“今の自分があること”をしっかり刻みつけることで、「オレンジ」の歌詞も際立ってくると思いました。「Sunflower」はMy Bloody Valentine『Loveless』を彷彿とさせるシューゲイザーですけど、グルーヴが大陸的だから浮遊感が強すぎない。大地に根を張っているような曲になっているのがいいですよね。
サイトウ:「Sunflower」はまさに『Loveless』のイメージでした。「オレンジ」は身近なところから発想しましたけど、「Sunflower」はウクライナの戦争のことから作った曲なんです。だいぶ前に地元の美術館でやっていた報道写真展で、どこかの紛争で撃たれた幼い娘と、その子を抱える父親の写真を見たんですけど、それが忘れられなくて。ウクライナの戦争が始まった時に、その写真のことを思い出していたんですけど、戦争によって、もともとその土地で長い間生活してきた人たちが居場所を追われてしまったり、一緒に楽しく暮らしてるはずやった恋人や友達、親や子供を失ってしまったり……争いとは全く関係ない人たちが、普通の生活を奪われているんやって思うとかなりショックで。戦争は嫌やなと改めて思ったし、そうなると自分の普段の生活がとたんに輝いて見えてきたんです。とはいえ、美術館で見た写真のような凄惨な経験があるわけではないし、U2「Sunday Bloody Sunday」みたいな曲だとリアリティがないなと思ったので、自分の身の回りにいた大切だけどもう会えなくなってしまった人や、死んでしまった人のことを思い浮かべて。ちゃんとリアルな出来事として捉えて、ポジティブな曲になるよう書いていきました。
ーーなるほど。1曲目「リビド」では〈ただ愛してくれよ 愛してくれよ もっと愛してくれ〉〈イラつく話し声を消し去って 歪む音で踊っていたい〉と歌っていますけど、こういう激しい楽曲にも、爆音を鳴らすことで“自分の大切な空間を守る”という感覚が宿っていますよね。「Sunflower」は一見ベクトルの違う曲だけど、そういう意味ではw.o.d.の“大切なものを守りたい”という意志が、新しい音像で鳴った曲なんじゃないかと思いました。
サイトウ:あぁ、そうかもしれないです。ネガティブな意味でもポジティブな意味でも、普段よく考えるのが「何のために生きてるんやろ?」とか、「今やってることってホンマに俺がやりたいことなんかな?」みたいなことで。なんでそう思うようになったかというと、27歳の壁を超えたのがデカいんですよね。ロックバンドやってる人は「27歳超えたけど、まだ生きるんやな」って絶対みんな考えると思います。それまでは勢いや衝動で生きてこれても、ちょっと落ち着いてきて、これからの人生のことをいろいろ考えるようになるのが27〜28歳くらいやと思うんですけどーー。
ーー自分もその世代なのでかなり共感します。今まで通りの無邪気な生き方じゃ通用しなくなってきて、まさに“LIFE IS TOO LONG”だなって思い始める感覚が27〜28歳くらいにありますよね。
サイトウ:そうそう、マジで思ってます。そうやって「最終的に自分には何が必要なんやろ?」「周りに何が残ってほしいんやろ?」って真剣に考えていった時に、ふと今、めっちゃ楽しいってことに気づけたんですよ。もちろん、日常的に辛いことやしんどいことはありますけど、友達もおるし、スタジオ行けばデカい音を鳴らせるし、一緒にバンドできるメンバーとスタッフもいるし、これってすごいことなんやなと。そうなった時に、自分にとってホンマに大切なものを守りたいと思うようになった……というか、それを探してたけど、実は持ってたんやなって気づけたんですよ。アイデンティティを手に入れたいと思ってもがいてた時期もあったけど、実は初めから自分で持ってたんやなって。今回はそのことも音楽で発信するようになったと思います。
「“衝動を意識した上での衝動”もロックのカッコよさ」
ーー逆に「リビド」で歌っているような衝動性との向き合い方は、どう変わってきていると思いますか?
サイトウ:「リビド」だけは、俺の中で圧倒的に毛色が違う曲なんです。純粋な初期衝動というよりも、“衝動を意識した上での衝動”なんですよ。もちろん初期衝動が強かった頃の気持ちは忘れないけど、さすがにもうそれだけでは曲ができなくなってきて。NirvanaもLed Zeppelinも、ジョン・レノンもきっとそうやったと思いますけど、一度アイデンティティを確立してしまうと、衝動性を意識できるようになっちゃうわけじゃないですか。それでも、大胆に音楽性を変えながら続けていく……わかりやすい例やとジョン・ライドンっぽさだと思うんですけど、それもロックの1つのカッコよさなんじゃないかなって思うんですよ。
ーーなるほど。
サイトウ:The Vinesとかもライブは衝動的でめちゃくちゃなのに、曲がよくでき過ぎてるんです(笑)。どんだけ丁寧にコーラス入れるねんって思うんですけど、「リビド」はそうやって自分の中の反抗的な気持ちを1回俯瞰で捉えてから、確信犯的に落とし込んだ曲というか。今さら“性的欲望”なんて言葉、誰も言わんやろって思いながら。
ーー衝動だけで曲は書けなくなったけど、世の中へのフラストレーションを抱え続けていることは事実で、その気持ちをアウトプットするために新しい方法論を手にしたということですよね。「馬鹿と虎馬」も人生とギャンブルを重ね合わせているから、そういう曲と言えるかもしれないです。
サイトウ:確かに。「馬鹿と虎馬」は椎名林檎さんみたいにいろんなことを包括しながら、1つのメッセージを書くイメージでした。社会って複雑な構造で成り立ってると思ってたけど、意外と単純でいい加減やなっていうことを、自分とは別のキャラクターを立てながら歌っていて。そうやってテーマを立てると純粋な衝動性ではなくなるから、以前だったら嫌やったと思います。
ーーそれも今作の広がりと言えますよね。ちなみに「馬鹿と虎馬」って、Arctic Monkeysへのオマージュだったりします?
サイトウ:めっちゃイメージの中にありました! どこで思いました?
ーー〈This is a stupid blues from 1994〉の歌い回しで感じました。Arctic Monkeysの歌詞を自分の生まれ年に変換して捉え直していますよね。
サイトウ:「I Bet You Look Good on the Dancefloor」ですよね。初期のArctic Monkeysっぽいバタバタした感じはサビのニュアンスに入ってると思うし、ライブでプレイする時もイメージにあるので、そこも気づいてもらってありがとうございます(笑)。
ーーそして初のZepp DiverCity(TOKYO)ワンマンも控えていますけど、これからに対してはどう感じていますか?
サイトウ:これまでもシームレスに曲は作ってきたし、今作はセルフプロデュースでしっかりメンバー同士でw.o.d.を作り切れたっていうのは大きなことだと思います。けど、アーティストとしての真価であり、独自性を見せていくのはこれからなのかなっていう気がしていて。今まではリスペクトからの引用も結構あったけど、これからできる5枚目のアルバムには、w.o.d.にしかできない創作活動をもっと込められるんじゃないかなって思っています。
ーー楽しみにしています。とはいえw.o.d.の核を貫いたまま、サウンド、ソングライティング、メッセージ全てにおいて明確に先に進んだ作品だと思いますし、『感情』は現状の最高傑作だと思いました。
サイトウ:ありがとうございます。まだ次がどういうものになるかはわからないですけど、頑張ります!
■リリース情報
w.o.d.『感情』
2022年9月21日(水)発売
・生産限定盤(CD+布ポスター+ライナーノーツ)¥5,000+tax
・通常盤(CD)¥3,000+tax
<収録曲>
01.リビド
02.イカロス
03.バニラ・スカイ
04.白昼夢
05.馬鹿と虎馬
06.Kill your idols, Kiss me baby
07.Dodamba
08.失神
09.Sunflower
10.オレンジ
アルバム特設サイト
■ツアー情報
『ONE MAN TOUR “バック・トゥー・ザ・フューチャーⅣ”』
10/1(土)神戸|太陽と虎
10/7(金)岡山|IMAGE
10/10(月・祝)福岡|DRUM Be-1
10/14(金)札幌|cube garden
10/16(日)仙台|CLUB JUNK BOX
10/19(水)京都|KYOTO MUSE
10/21(金)高松|DIME
10/22(土)広島|SIX ONE Live STAR
10/29(土)長野|LIVE HOUSE J
10/30(日)金沢|vanvan V4
11/5(土)名古屋|BOTTOM LINE
11/6(日)大阪|BIGCAT
11/17(木)東京|Zepp DiverCity TOKYO
TICKET:adv. ¥4,000(+D)
<チケット一般発売>
対象公演:10/1神戸~10/30金沢
発売開始:9/3(土)10:00~
受付方法:先着販売
取扱いPG:チケットぴあ / イープラス / ローソンチケット
対象公演:11/5名古屋~11/17東京
発売開始:9/23(金・祝)10:00~
受付方法:先着販売
取扱いPG:チケットぴあ / イープラス / ローソンチケット