月詠み ユリイ・カノン、1st Story完結に向けて クライマックス飾る「月が満ちる」から始まったストーリー

月詠み、1st Storyを振り返る

より広く、自分の音楽を知ってもらうひとつのきっかけになる存在

ーー「月が満ちる」はリノの目線で描かれているのかと思いましたが、どうでしょうか。

ユリイ・カノン:「月が満ちる」に関しては、前半と後半に分けて、それぞれの想いを描いているので、さっき言っていた二人がそれぞれで作った楽曲とは少し違って、二人を俯瞰した歌詞になっています。それで「月が満ちる」という意味になるんです。

ーー今回のアルバムのタイトルも『月が満ちる』ですね。

ユリイ・カノン:月詠みを始めることになってからストーリーの一区切りとなるときにこの言葉を使おうと、実は最初から決めていました。「月が満ちる」という曲自体も月詠みとして活動する前からあったんです。完成まで3年間の時間があった分、最も長く向き合って、メロディ、使っている楽器、歌詞も集大成のものにしていったのがこの曲です。「月が満ちる」の歌詞の中に、月に例えた〈君〉を〈詠う〉という歌詞が出てくるんですけど、それが月詠みという名前につながっていたり、前回のアルバムのタイトルが『欠けた心象、世のよすが』と欠けたものから満ちたものになるという意味になっていたりします。‟月”が、作品の中でもひとつのキーワードです。

月詠み『月が満ちる』Music Video

ーー1st Storyの最後の曲「月が満ちる」という言葉から月詠みのストーリーが始まっていたんですね。月という言葉が、ユリイ・カノンさんにとってここまで思い入れのあるものだったとは。

ユリイ・カノン:二人の主人公を登場させようと思ったときに、パッと浮かんだのが月でした。光を受けて輝く月は、二人の関係性をイメージさせるというか。どちらが月かというのは明確にはしていないんですけど、どちらもがそう思っている。この暗い世界でひとつ、道を射した光がそれぞれにあるようなイメージです。あと、「真昼の月明かり」という楽曲があるんですけど、「生きるよすが」の歌詞の中では、ユマは自分のことを〈真昼の月〉と表現しています。そんな「生きるよすが」に対してのアンサーとしてリノは、「真昼の月明かり」を歌っているという。

月詠み『真昼の月明かり』Music Video

ーーなるほど。それから、今作も前作と同様に、Epochさん、とうかささんによる楽曲もありました。

ユリイ・カノン:二人に作ってもらった楽曲は、時系列的に言うと初期のものになります。ユマとリノの変化を表すためにも、自分じゃない人間が作ったほうがより表現したいことを表現できるかなと思ったんです。例えば、前作では「夜に藍」という曲をEpochに作ってもらったんですけど、その曲自体はそもそも、ストーリーの中ではユマの師匠が作ったもので、最初にユマが練習した曲という立ち位置になっていて。今回のアルバムでEpochが作った「暮れに茜、芥と花束」も、リノが最初のほうに作っていた楽曲です。

ーーどちらも物語の中で不可欠な曲となっているんですね。また、今作には未収録の「だれかの心臓になれたなら」の曲名が、ユマが最後に残した未完成曲として『廻想録』に載っています。

ユリイ・カノン:「だれかの心臓になれたなら」は今作で曲としては存在していないんですけど、ストーリー上では、すごく大事な曲として登場します。もしかしたら後々、形になるかもしれないですけど、今はあえて想像の余地を残したいというか。描きたいものは今回のアルバム『月が満ちる』の特典の小説だけでも楽しめるようには作っていて。前作の続きではあるんですけど、ストーリー自体はこれだけでも読めるものになっています。

ーー作品ごとに関連を持たせる作りは共通していると思いますが、ボカロ曲と比べて、月詠みの作品はどこが違うと思いますか?

ユリイ・カノン:「後々これを出すために今、こういうものを先に出そう」みたいに伏線を張ったり、仕掛けを作っていくのが月詠みの作品ですね。例えば、「こんな命がなければ」もストーリーとしてはわりと後半の、すでにユマが亡くなっているところで、そこから振り返っていく。作っていく点と点をつなげていくようなやり方で、どうしてそこに至ったのかを見せていきます。

ーー「こんな命がなければ」も、今作の「月が満ちる」も、最終的には前を向いて終わっていて、月詠みの楽曲には最終的に光を見せるという共通点があるように感じます。

ユリイ・カノン:ユマの死を描く上で、死を美化したいわけでもないし、死を無駄にしたくないのもあって。だからこそやっぱりリノには前を向いてもらって、希望を持たせていくような楽曲になりました。基本的には、僕がボカロで作っている曲も月詠みの曲も、やっぱり悲しいものが多いんです。でもそれが誰かにとっては、悲しいだけじゃなくて寄り添うものになるとも思っていて。自分自身も自分の作品に救われているというか。おこがましいんですけど、作品が誰かにとって価値のあるものになればと思いながら作っていますね。

ーーでは最後にユリイ・カノンさんにとって、月詠みとはなにかを教えてください。

ユリイ・カノン:やっぱりボーカロイドだとハードルがあって、聴いてもらえないこともあったりするので、月詠みはそういうハードルを取っ払うもの。人間歌唱の曲でありつつ、ボカロでやっていたようなアプローチを踏襲して表現していくことで、より広く、自分の音楽を知ってもらうひとつのきっかけになる存在だと思います。

 例えば、今作に入っている「白夜」のようなバラードはずっと出してこなかったんですけど、作ること自体はやっていて。この曲の一部になっている息遣いは、やっぱり人間でないと表現できない。「白夜」は、今だからこそ出せたんだと思います。逆にボーカロイドじゃないと表現できないものもあって。自分の音楽をやる上では、どちらも必要なんです。二つとも、求めているもの、求められているものが違うので、それらをうまく表現できたらなと思っています。

月詠み『白夜』Lyric Video

■リリース情報
月詠み『月が満ちる』
2022年8月17日(水)リリース
配信はこちら
<CD収録曲>
01 廻想
02 生きるよすが
03 ヨダカ (TVアニメ『BIRDIE WING -Golf Girls’ Story-』エンディング主題歌)
04 醜悪
05 暮れに茜、芥と花束
06 メデ
07 アメイセンソウ
08 白夜
09 月が満ちる

・完全生産限定盤
CD+『廻想録』(小説&フォトブックレット)+コード譜+栞
¥3,300(税込)
https://tsukuyomi.lnk.to/tsukigamichiru_gentei
・通常盤
CD only
¥2,200(税込)
https://tsukuyomi.lnk.to/tsukigamichiru_tsujo

■ライブ情報
月詠み Story Live『だれかの心臓になれたなら』
開催日:2022年10月10日(月・祝)
会場:TIAT SKY HALL(東京)
【第1部】OPEN 14:30 / START 15:00
【第2部】OPEN 18:00 / START 18:30
来場者全員にオリジナルポストカードプレゼント。

月詠み Official Site

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる