月詠み ユリイ・カノン、1st Story完結に向けて クライマックス飾る「月が満ちる」から始まったストーリー

月詠み、1st Storyを振り返る

 2020年10月10日に公開した1作目の「こんな命がなければ」以来、音楽家のユマと、ユマに憧憬し音楽を始めるリノが主人公として登場する1st Storyを紡いできた月詠み。現在、4300万回再生を記録するボカロ曲「だれかの心臓になれたなら」がスマッシュヒットしたボカロP ユリイ・カノンがメインコンポーザーを務める音楽プロジェクトだ。この「だれかの心臓になれたなら」とその関連作を再構築したという1st Storyは、主にリノの目線から描いた1stミニアルバム『欠けた心象、世のよすが』と、8月17日にリリースするユマの目線から描いた2ndミニアルバム『月が満ちる』をもって完結へと向かう。月詠みの作品の特徴としては、完全生産限定盤に同梱されている小説(ユリイ・カノン著)がそれぞれの楽曲の不可解を紐解く役割を果たしていること。音作りはもちろん、月詠みの作品を追っていると、ある程度のスパンをかけて点と点がつながる、そんな感覚を得ることができる。

 これまでリアルサウンドでは、月詠みのメインコンポーザーであるユリイ・カノンにメールインタビューをおこなったことはあるが、今回は記念すべき初のリモートインタビュー。なかでも、今作を飾る最後の収録曲であり、タイトルにもなっている「月が満ちる」という言葉はインタビュー中のハイライトだったといえる。2020年10月から始まった月詠みの1st Storyが、たしかに今ここに満ちた。(小町碧音)

「だれかの心臓になれたなら」が想定していた以上に大きな反響があった

ーーユリイ・カノンさんは2015年からボカロPとして様々なボカロ曲を発表してきましたが、月詠みとして活動することはどのくらい前から考えていたんですか?

ユリイ・カノン:月詠みを始める1、2年ぐらい前からです。アーティスト歌唱の制作依頼を多く受けるようになった辺りで、人間が歌う曲とボカロが歌う曲が自分の中で分かれるようになっていった。そのなかで、自分の作品として出す場がほしいなと思い始めて。人間が歌う曲を作るなら、意味のある作品にしたいと考えるようになりました。月詠み以前から、曲と曲とで世界観や人物が共通している何かしらのストーリーをはらんだ作品を発表してきてはいるんですけど、今度はこれまで以上にひとつの物語をもっと掘り下げて、コンセプチュアルな作品にしたいと思ったんです。

ーー今のメンバーで作品を発表することを決めたきっかけは、なんだったのでしょうか。

ユリイ・カノン:もともとは1人で楽曲制作をしていたんですけど、ある時期からギターを人に演奏してもらうようになって。作品のクオリティを上げていくのに、いろんな人に助けてもらうことが増えたんです。より完成度の高い作品を目指すうちに、今こうして月詠みメンバーの力を借りながら活動するようになりました。

ーーもともと、メンバーの何人かとは知り合いだったと聞いています。

ユリイ・カノン:メンバーは、月詠みをやると決めてから探し始めたんです。一番に決まったのは、僕がボーカロイドで楽曲を発表し始めた頃からの仲で、前々から「一緒に何かやりたいね」と話していたギターのEpoch(エポック)です。Epochには初期から自分の曲にギターで参加してもらっていました。

ーーEpochさんから、とうかさ(Ba)さんとメンバーが決まっていったんですね。ボーカルは女性ということで。

ユリイ・カノン:そうですね。これまでの自分の楽曲、月詠みのストーリーもそうなんですけど、女性が歌うのがいいかなとは思っていたので。コンセプトに合わせつつ、現在のボーカルにも歌ってもらっている流れですね。

ーー月詠みの作品は、ユリイ・カノンさんの代表曲「だれかの心臓になれたなら」とその関連楽曲をもとに再構築したものだと思いますが、公開時点で月詠みの楽曲をこうしていこうというビジョンはあったんですか?

ユリイ・カノン:ユリイ・カノンの初期の作品から、今展開しているストーリーと同じものを作ってはいて。そのなかで「だれかの心臓になれたなら」が一連の話のピークで、関連作をその後も作る予定ではあったんですけど、当時「だれかの心臓になれたなら」が想定していた以上に大きな反響があったんです。それで、逆に当時はなんとなくこれで畳もうかなって思って、続きを出すのをやめました。そのあと、月詠みで何のストーリーをやろうかと考えたときに、やっぱりその話をあらためて最初から最後まで明確に描こうと。

だれかの心臓になれたなら /ユリイ・カノン feat.GUMI

ーーそれで月詠みの楽曲は、ユリイ・カノンさんの楽曲と地続きになっているわけですね。

ユリイ・カノン:ユリイ・カノンの曲で描いていたのは、亡くなった女の子とその死を忘れられない女の子で、後者のほうが主人公になっているんですけど、月詠みでは二人とも主人公にしたいと思ったんです。二人は音楽家なので、ストーリーを歌詞の中で語るより、それぞれが作る音楽を月詠みの楽曲として発表していくことで、二人を見ていくのがいいかなと。月詠みの1作目の「こんな命がなければ」では、亡くなったユマと、それを悼むリノをあらためて描いているんですけど、前作のアルバムの特典の小説ではその二人の共通点に音楽があった上でリノがユマに心酔していることを、まずわかりやすく描いて。主にリノの回想の中でユマを見せていって、ユマがどんな人物なのかを物語を追っている人に感じさせつつ、今もうひとりの主人公のユマの楽曲を発表し始めたところですね。

月詠み『こんな命がなければ』Music Video

ーー今作の小説『廻想録』はよりユマの周りにフォーカスを当てていて、前作の小説『心象録』ではわからなかったことが明らかになることで、やっと物語の全貌が見えるようになって。最後まで読み応えのある内容でした。今作の中でも、「生きるよすが」はユマの楽曲としてとても重要だと思います。

ユリイ・カノン:「生きるよすが」は、ユマが路上で歌っていて、それを聴いたリノが感化されて音楽を始めるに至る楽曲なので、ひとりの人間が、音楽に目覚めるぐらいパワーのある曲にしたいと思っていました。リノはもともと、生きる目標はなくて、何となくぼんやりと生きてきた人間なんですけど、ユマの「生きるよすが」が歌詞のとおり、生きるよすがになってくるんです。

月詠み『生きるよすが』Music Video

ーー「生きるよすが」は、例えば「だれかの心臓になれたなら」と同じような意味が込められているように感じました。

ユリイ・カノン:ユマが歌っている「生きるよすが」は音楽。「だれかの心臓になれたなら」の心臓は、失うと生きていけなくなるものとして表現していて。それぞれ言っていることは同じで、‟生きる理由”がテーマになっています。

ーーユマにとっての生きる理由が音楽で、リノにとっての生きる理由が、ユマ。それぞれがちゃんと生きる理由を持っているから今を生きていける。

ユリイ・カノン:最終的にリノは、誰かのために生きると決めて、あらためて生きていくことを決意するという。

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