⽉詠みはなぜ考察意欲をかき立てるのか ユリイ・カノンに問う、ストーリーを通した音楽表現の面白さ

ユリイ・カノン、⽉詠みが考察意欲をかき立てる理由

 ボカロPのユリイ・カノンを中心に結成された物語と音楽を展開するプロジェクト、⽉詠み(ツクヨミ)が、9⽉8⽇に初のミニアルバム『⽋けた⼼象、世のよすが』をリリースした。

 2020年10月10日、YouTubeに1作目の作品「こんな命がなければ」を投稿すると同時に結成を発表した月詠み。今回のミニアルバムには、そんな公開からわずか3カ月で300万回再生を突破した「こんな命がなければ」、『CDTVサタデー』(TBS系)2月度EDテーマ「ネクロポリス」、ガンプラ40周年記念映像『ガンダムビルドリアル』主題歌「新世界から」を含む全8曲が収録されている。

 リアルサウンドでは今作のリリースに伴い、ユリイ・カノン本人へメールインタビュー。その回答を交えながら、ユリイ・カノン、そして月詠みの作品ができ上がるまでの話を綴る。

⽉詠みだからこそ広がる“表現の可能性”

 2015年11月、ニコニコ動画にて「あしたは死ぬことにした」を投稿し、ボカロPデビューしたユリイ・カノン。2021年9月中旬現在、YouTubeの動画総再生回数は9000万回以上で、なかでも再生回数の多い「スーサイドパレヱド」「おどりゃんせ」「だれかの心臓になれたなら」は、メタル要素のあるロックサウンドに、退廃的な架空の世界を描くユリイ・カノン節が炸裂している。今年3月には、アルバム『人間劇場』でメジャーデビューも果たした。

【オリジナル】スーサイドパレヱド / ユリイ・カノン feat.GUMI -Suicide Parade/YurryCanon
【オリジナル】 おどりゃんせ – Odoryanse / YurryCanon feat.MIKU&GUMI
だれかの心臓になれたなら /ユリイ・カノン feat.GUMI

 ユリイ・カノンは2009年頃、ハチ(米津玄師)やwowakaによるボカロ曲を聴いたことがきっかけで、ボカロに関心を持ったという。実際にボカロから音楽を始めた理由をこう語る。

「音楽は、親や友人の影響で中学生頃から始めました。高校の軽音楽部でバンドをやることになってから作曲するようになったんですが、そのバンドが解散してから一人でできる音楽を考えたときに、ボカロをやろうと思いました」

 第一に、ユリイ・カノンの楽曲の大きな特徴として挙げられるのは、楽曲ごとに結び付きを持たせた作り。例えば、2016年に投稿された「ベロニカ」の〈『だから“こんな世界”なんて嘆くきみの瞳に/雨上がりの七色を見せてあげる』〉という歌詞は、2018年に投稿された「だれかの心臓になれたなら」の歌詞〈「こんな世界」と嘆くだれかの/生きる理由になれるでしょうか〉と一致するように、いわばユリイ・カノンの作品はオムニバス形式になっている。ゆえに、見聞きしたことのある文字を作品のなかに発見した途端に、考察意欲が掻き立てられる仕組みだ。

【MV】 ベロニカ 【オリジナル】

「誰かに自分の思想や哲学みたいなものを聞いてもらいたいと思いつつも、『あんたに何がわかるんだ』みたいに思ってしまう人間で。だからこそ本当に言いたいことを遠回しに表現したり、そこに想いを馳せてくれる人なら理解してくれるかも、って聴き手に委ねてる部分もあるんですよね。また、『この楽曲はこういうことを言っていて、こういうストーリーです』みたいに明らかにはしたくなくて。あくまで聴き手の解釈で共感するものになったり、自身に重ねてもらったり、娯楽として見てもらったり。聴き手によって形が変わるのが考察の面白いところだと思っています」

 そして、ユリイ・カノン個人の活動とは並行する形で、mikoto(Vo)、エポック(Gt) 、とうかさ(Ba)の3人を迎えてスタートしたのが、コンセプチュアルな世界観を表現する月詠みである。

「昔から曲を作っているときに、この曲はボカロの方が映えるなとか、人間が歌った方が映えるなと思うことはあって。どこかで人間歌唱の音楽をちゃんとした形でやりたいとは思っていました。それから、個人のボカロ作品でも物語性を持つ楽曲は作っているので、関連するストーリーや世界観を持つ楽曲群を、アルバムなどを通じて改めてオムニバス形式でひとつの作品にしたいと思ったことから、月詠みの活動へ繋がっていきました」

 楽曲制作においては、「自分が好きになるかどうか」を大事にしているという。月詠みで作詞・作曲を手がけるのはユリイ・カノンだけではない。今作の収録曲のうち、「カルミア」の作詞・作曲・編曲はとうかさ、「夜に藍」の作詞・作曲はエポックに委ねている。

「もともと、とうかさ、エポックの作る楽曲は好きだったのと、好きな音楽はかなり合うものの、作る楽曲は僕とは違う色を持っているので、自分が作りたいけど作れないものを補ってくれると考えました。二人とは月詠み結成以前から親しくしていたこともあって、僕のやりたいことへの理解もありますし、できることの可能性をより広げてもらえると考えて、作曲の面でも参加してもらいました」

 今作の「ネクロポリス」をはじめ、歌詞には簡単に理解できないような難読漢字が使用されていたり、古事記からの引用文が使われていたりと、文学性にも富んでいるのが、ユリイ・カノンの楽曲における“言葉”の特色だ。

「自分の語彙や言辞に関しては小説の影響が大きいかと思います。他にも哲学書や心理学の本、歴史の文献を読むことが好きなせいで、変わった言葉を使いたがるようになった気がします。譜割りを優先して常用的でない言葉になるときや、表現を遠回しにしたいとき、世界観的に一般的な口語のような歌詞だと雰囲気が作れないときに、難読な言葉を選んだ歌詞になりますね」

月詠み『ネクロポリス』Music Video

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