じん、「未だ、青い」制作を通して触れた湊あくあの強さ 「だからVTuberをやっているんだと理解できた」
湊あくあが、新曲「未だ、青い」を発表した。
楽曲は、湊あくあ主演・プロデュースの純愛ノベルゲーム『あくありうむ。』主題歌に起用されている楽曲。作詞作曲はじんが担当し、疾走感あふれるエモーショナルな曲調に仕上がっている。
リアルサウンドでは、じんへのインタビューを実施。楽曲制作の背景から、彼が感じた湊あくあの思い、VTuberカルチャーの展望についてなど、語ってもらった。(柴那典)
VTuberとVOCALOIDの文化的な共通点
ーーじんさんがVTuberカルチャーに触れたきっかけは?
じん:VTuberカルチャーを強く認識したのは、2019年、燦鳥ノムさんに「Life is tasty!」を書いたタイミングだったと思います。もちろん、それ以前にも日常の中でキズナアイさんや話題になっている方々の活動にはひとつのエンターテインメントとして触れてはいたんですけど、いざ楽曲を書くとなると、どんな人たちがどういうつもりで聴いているかを踏み込んで考えなければいけない。そこが大きなきっかけだったと思います。そのときに感じたこととしては、自分が20歳の頃、VOCALOIDの楽曲を作り始めた頃のVOCALOIDカルチャーに似てる感じがあって。
ーーというと?
じん:ある種、奇異の目で見られてるようにも感じましたし、でも、他では絶対に生まれない匂いとか手触りが生まれているのも感じるし、異種格闘技みたいな状態になっている。思い出すとVOCALOIDに近いなって、当時思ったんですよね。ナメて書けないというのはすごく思いました。世間が斜めな角度で見ていて、でも本当に真剣に信じてる人たちがいる。バーチャルという言葉でありながらも、ものすごく距離が近い、ひょっとしたら現実よりも心の中に入り込んでくるような文化だということを感じました。その後にRain Dropsというグループに楽曲提供させていただいたときにも、そういうことを思いました。
僕は、作曲家としてあまり器用なほうではないんです。売れる曲、快楽的な曲を簡単に作るというようなタイプではなくて、人より難物なところがある。でも、楽曲のオファーを受けたときに、すごくエモーショナルな感じがあった。求められた筆致が、幼少期から大人になる上で感じてきた、普通の人間が普通に感じることを伝えたいというもので。バーチャルではあるけれど、ものすごく生々しいということを思いました。ある意味、現実的な、対面のやり取り以上に、他の人と心を結ぶことができる存在にもなっているんじゃないかと思っていて。僕はそうなってほしいって思っているし、まったくナメてかかることはなかったですね。そういう感覚でいます。
ーーホロライブに対しての印象やイメージは?
じん:多くのファンに愛されている方々だなって印象はありました。いろんな活動を見ていても、可愛らしかったり、格好よかったり、他の人ができないことを平然とやってのけるエネルギーにあふれている人たちだなって感じていました。自分としては、華のある方々を遠くの方から見ているような感じだったというか。ただ、実際に湊あくあさんとお話しさせていただいて、めちゃくちゃイメージが変わりました。
ーーそれはどんな変化だったんですか?
じん:あくあさんが今回の楽曲を自分に書いてほしいと言ってくださって。どんな人なんだろうと思って、一度お話しさせていただいたんです。それこそ、僕からしたらあくあさんはスターに見えるんですよね。眩しく輝いていて、多くの人にエネルギーを与える、尊い存在というか。そういう印象だったんですけれど、お話ししてみたら、ある意味、人間だったんですよね。非常にいい人で、物事の伝え方を考えてらっしゃって、純粋なところがあって。たぶん、いろんなことを怖がっているのだろうとも思いました。ご自身のことを何でもできる完全無欠な存在だとは決して思っていない。一つ一つのことにちゃんと真っ当に向き合って、痛い思いをするかもしれないということを続けてこられたんだろうなという感じがあって。強いなあ、と思いました。嬉しくなりましたね。
(湊あくあは)「すごく純粋な感じがした」
ーー曲を作ってほしいと依頼を受けてのまず最初の印象はどんな感じでしたか?
じん:「え? 俺?」って思いました(笑)。もっと他の作曲家の人に頼んだほうがいいんじゃない、面倒くさいよ、俺って。ありがたいことですし、嬉しいし、もちろん全力でやらせていただいたんですけれど、「待ってたよ」みたいな感じではなかったです。
ーー湊あくあさんのこれまでの楽曲には王道のアイドルポップス的な曲も多かったですし、そういう流れからも意外な感はあったのでは?
じん:そうですね。「大丈夫ですか、本当に?」みたいなことも思ったりはしました。でも、衝撃と共に、やっぱりとても面白く感じました。自分の中に「わかる」と思えることが見つかれば、他の方とは違うやり方にはきっとなるだろうと思っていたので。
ーー曲を作るにあたっては、どんなやり取りがあったんでしょうか。
じん:ただ自分が書いた曲を歌わせるということではなくて、あくあさんから何かを引き出して、それが歌が乗る船になるだろうと考えて話し合いに臨んだんです。そうしたら、あくあさんは、自分が大事にしているものだったり、そういったものに向けての思いを話してくださって。それが、すごく純粋な感じがしたんです。初めてお話ししたときのあくあさんは、自分の好きなもの、友人やお世話になってる人のことをとても大事に考えてらっしゃって。自分のやりたいことよりも先に、まず何を大事にしたいかを言ってらっしゃった。仲間のことや、自分が今立ってる場所や、応援してくれてる人たちのことを大事にして、それを形にしたいっていう。それが、おべんちゃらという感じがしなかった。本当に大事なんだなって感じて。そこが熱くなったところでした。ちゃんとそれをやりましょうって。僕の受け取り方としては、純粋に、普段から抱えている思いを皆さんに感じてもらうための楽曲になると思いました。
ーーあくあさんが大事にしているものについては、どんな話をしていたんでしょうか?
じん:わかりやすいところで言うと、一緒に活動しているホロライブのメンバーさんの話をしていただきました。辛い時どうだったとか、こういうことがあってこういう話をしたんだとか、いろんな話を自分にしてくれて。あと、僕が感じたのは、過去の自分ですね。今の自分の中に過去の自分がちゃんといる、だから過去の自分に不甲斐ないことはしたくないという感じはありました。僕としても、子供たちや、童心を感じる瞬間に自分の作品があってほしい、そういう子たちが無防備な状態で楽しむものはできればプラスチックであってほしくないという願いがある。あくあさんが話したことにはすごく純粋な思いが感じられて、だから、僕自身もそれで火がついたところは大きかったと思います。