kz(livetune)からツミキ「フォニイ」まで ボカロシーンにおけるミクノポップ&VOCALOEDMの変遷を追う
そんなミクノポップを始めとしたエレクトロミュージックも、これ以降同時期に起こったVOCALOID曲全体におけるサウンドの傾向遷移の影響を受け始める。ただしそもそものジャンルサウンドと当時のボカロ曲における流行サウンドの相性自体は、厳密にはあまり良いものではなかったらしい。人気ジャンルの筆頭であったVOCAROCKの勢いに押されたこともあり、電子音楽ジャンルの潮流は2010年以降、少しずつ失速を始めていく。この転換期に点在する曲として、エレクトロハウス系のDixie Flatline「Just Be Friends」(2009年)、2010年の「ルカルカ★ナイトフィーバー」をはじめとするsamfreeのユーロビートシリーズ、2011年のMitchie M「FREELY TOMORROW」などが挙げられるだろう。
その後2011~2012年にkz(livetune)「Tell Your World」のCM起用もあったものの、ボカロにおける電子音楽ジャンル自体は一足早く落ち着きを見せ、その後VOCALOID全体に一度衰退期が訪れる。しかしこの間すでに現在のシーンに繋がる兆しは見え始めており、その筆頭が新たなエレクトロジャンル「VOCALOEDM」の広がりだ。元々上記の楽曲点在期にも、よく見ればサウンドはすでに軽やかなポップからダンスビートへ徐々に変化していることが窺える。
加えて2014年にはギガP「ヒビカセ」、niki「ELECT」などの投稿もあり、着実にブームの火は広がりつつあった。その後2015年以降のダンスロックブームを契機にVOCALOIDシーン全体の復興が起こり始め、「踊れる音楽」としてのボカロ曲の機運が数年かけて高まっていく。
2016年投稿の雄之助「PaⅢ.SENSATION」や2017年のSpacelectro「妄想税 Big Room House Remix Spacelectro」、梅とら「SCREAM」のヒット。また2018年にはピノキオピー「ヨヅリナ」や、これまでも同ジャンルで活躍していたギガP、八王子Pが共に「劣等上等」「バイオレンストリガー」でブレイク。
さらに翌年2019年には両者タッグの八王子P×Giga「Gimme×Gimme」も投稿され、この年からVOCALOEDMに留まらず多彩なエレクトロサウンドのボカロ曲が、一気にシーン全体の再興へと貢献することとなる。同年頭角を現した面々は「ラストリゾート」「幽霊東京」のAyase(YOASOBI)、「ビターチョコデコレーション」「コールボーイ」のsyudou。さらに「オートファジー」を手掛けた柊キライや、「ジェヘナ」を投稿したwotaku、そして翌2020年には「KING」でKanariaもブレイク。上記のラインナップから、いかにこの時期が大きなターニングポイントだったかは一目瞭然だろう。