女王蜂 アヴちゃん&森山未來『犬王』の歌声が高評価 古典文学を“ロックスター”的ドラマに昇華した音楽の力

 一方、犬王役のアヴちゃんも「喉がつぶれるくらいの声を出して、収録時の録音マイクをぶっ壊す気持ちで歌で喧嘩しました」(※1)という言葉も腑に落ちるレベルで覚醒した歌を披露。アヴちゃんといえば、音域が非常に広いボーカリストだ。声色を自在に使い分ける歌唱法が特徴的で、高音も低音も豊かに発声できるほか、1オクターブ以上の跳躍もお手のもの。アヴちゃんの歌唱力の高さがファン以外にも知られる一つのきっかけとなったYouTube チャンネル THE FIRST TAKEの「火炎」(女王蜂)でもそういった持ち味が存分に発揮されていた。

女王蜂 - 火炎 / THE FIRST TAKE

 地獄のマグマを煮詰めたようなえぐみのある低音から、鐘の音のように開放的に響く澄んだ高音までを網羅した歌声は、“怨念の供養”を目的とした彼らの演目に打ってつけだ。犬王はやがて、芸を一つ極めるごとに自らの体の変形が一つずつ解かれていくことを発見するが、全ての変形が解かれることを犬王自身が望んでいるわけではない。むしろ自身の身体的特徴を活かし、ユニークかつアクロバティックに舞っているわけだが、自身の声を自在に駆使するボーカリストとしてのアヴちゃんもまた、“私は私であり、私以外は私になれない、ゆえに私は私であり続ける”という自覚と覚悟の下、同じ種類の自由を謳歌しているように思える。また、瞬間ごとに違う顔を見せる声は、歌唱シーンだけではなく、劇中で齢を重ねるキャラクターの声優を務めるにあたっても活かされていた。

 そんな二人が歌で以って魂をぶつけ合った時の熱量を直に体感できる劇場型ロックオペラ『犬王』。なお、先ほど“基本的には森山の語り→アヴちゃんの歌の構成”と書いたが、物語終盤には、二声が重なり、美しいハーモニーを生み出す場面がある。その素晴らしいシナジーはぜひ劇場で確かめてほしい。

※1 https://inuoh-anime.tumblr.com/post/685555771219542016/%E7%8A%AC%E7%8E%8B%E9%96%8B%E5%B9%95%E8%A8%98%E5%BF%B5%E5%88%9D%E6%97%A5%E8%88%9E%E5%8F%B0%E6%8C%A8%E6%8B%B6-%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88

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