三上ちさこ、20年の歩みを肯定していく圧倒的な歌声 fra-foaの楽曲に新たな意味が生まれたアニバーサリーライブ
「この10年で東日本大震災やコロナ禍などいろんなことがあって。とても苦労して、時には大切なものを失ってしまった人もいるかもしれないけれど、今ここにこうしてみんなが集まれていることが奇跡だなって思います。そして、このデビュー後初ワンマンをやった会場で、また同じ曲を歌えることを本当に嬉しく思います」
そんなMCに続いて「プラスチックルームと雨の庭」のイントロが鳴り始めた瞬間は、鳥肌が立つほど大きなハイライトだった。生きる価値を見出せなかった〈僕〉が、〈君〉との出会いを通して自分の中にある〈誰かの喜ぶ顔が見たい〉という感情に気づいていく同曲。もともと心のトゲがそのまま楽曲全体のエッジになって表出している印象だったが、今の三上が歌うことで、闇ではなく光の部分に、死への願望ではなく“生の実感”に最大限のスポットライトが当てられる。かつて殻の中で“愛されたい”という気持ちを抱えて何かを待っていた三上は今、過去の自分も含めて、誰かに手を差し伸べられるアーティストに成長しているのだ。
続く「edge of life」や「blind star」はソロ曲と地続きだと言わんばかりのパワフルさで、「息継ぎする場所がなくて大変な曲」だと語った「煌め逝くもの」では言葉を畳みかける圧巻の歌唱を披露した。そして代表曲「青白い月」では、さらに声色が変わったかのように儚くて伸びやかな歌唱が素晴らしく、(全曲そうなのだが特に)かなり細やかなリズムを刻んだ語尾のビブラートで、味わい深さを増幅させている。
そんなfra-foaの楽曲に欠かせないものといえば轟音のアンサンブルだが、この日は手練れのメンバーが集結してスペシャルな音像を鳴り響かせてくれた。Dr.StrangeLoveなどでバンド活動する一方、fra-foaの2ndアルバム『13 leaves』をはじめ数々の作品でプロデューサーとしても名を馳せる根岸孝旨(Ba)。椎名林檎の初期作でギターを弾くなど、エッジの立ったサウンドが高く評価され、根岸とはJUNK FUNK PUNKも組んでいる西川進(Gt)。藤井フミヤ、野宮真貴、斉藤和義から藤原さくらや葉加瀬太郎に至るまで、ジャンルの垣根を超えてリズムを支える平里修一(Dr)。とりわけ、ライブ中盤の「解放区」や、本編ラストを締めくくったfra-foaの1stシングル曲「月と砂漠」アウトロのセッションパートは圧巻だった。熟練の腕でスマートに低音を鳴らす根岸と、パワフルかつタイトなドラマー 平里による安定感抜群なリズムの上で、日本のオルタナティブサウンドを支えてきた西川の泳ぐようなファズギターが炸裂。演奏面も大きな聴きどころとなった。
アンコールではこれからリリース予定だという新曲「レプリカント(絶滅危惧種)」が初披露された。コロナ禍で感じた経験を赤裸々に歌詞に落とし込んでおり、これまで生きてきた軌跡を、これからの未来を生きていくための希望にしようと歌う、今の三上ちさこらしい前向きなアンセムだ。
そして「自分の人生になくてはならない曲」だと語った「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」を高らかに、最後に「小さなひかり。」を温かく歌って大団円に。かつて手にしたかった“求められているという実感”を、今は地に足をつけて大らかに歌うことができるんだという何よりのメッセージ。それは、生きていきたい、愛されたいという気持ちを、「生きててよかった」「愛して/愛されてよかった」という肯定の気持ちに変換していけた瞬間でもあったと思う。紆余曲折あった22年間のキャリアも、この日のライブで1本の線で繋がったのではないだろうか。三上と根岸による懐かしいレコーディング裏話を笑いながら聞けるのも往年のファンにとっては夢のようだっただろうし、22年間の楽曲を等しく“自分の音楽”として捉えられた三上にとっては、正真正銘新たなスタートラインに立つライブになったはずだ。
どんなに独りでも繋がろうとすること、誰かのために歌うことを諦めなかったからこそ、この日があったんだと胸を張れるような鮮やかな一夜。きっとここから、三上ちさこのさらなる快進撃が始まるだろう。過去の自分を否定することなく、今を精一杯生き、日々の小さなひかりを大切にしながら、“20+2周年”の次なる動きを楽しみに待ちたい。
※1:https://youtu.be/91n0cY8iaVY
■セットリスト
『Re: Born 20+2 Anniversary Live -三度目の正直-』
5月25日(水)@下北沢SHELTER
1.JUNCTION
2.Parade For Destruction
3.dear
4.Inner STAR
5. TRAJECTORY -キセキ-
6.解放区
7. アザミノ
8.wallless
9.プラスチックルームと雨の庭
10.edge of life
11.blind star
12.煌め逝くもの
13.青白い月
14.月と砂漠
<アンコール>
15. レプリカント(絶滅危惧種)
16. 澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。
17. 小さなひかり。
配信ライブはこちら
アーカイブ期間は6月2日(木)23:59まで