aikoが語る、ラブソングを歌い続ける決意 「恋愛の曲を書いていなかったらまったく違う人生を歩んでいた」
いつの時代にも普遍的に愛されるラブソングを世に送り出してきたシンガーソングライター・aiko。自身が第一線で次々と楽曲を発表する一方、今日のポップミュージックで活躍する数々のミュージシャンたちにも大きな影響を与えてきた。本日5月15日放送の音楽バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)でも「aiko特集」が組まれ、ファンを公言する長屋晴子(緑黄色社会)、石原慎也(Saucy Dog)、オーイシマサヨシらがそのすごさについて語り尽くすという。
aikoは1998年のデビュー以来、一貫してラブソングを歌い続けている。aikoはなぜラブソングを歌うのか? そしてなぜaikoのラブソングは世代を超えて愛されているのか。今回リアルサウンドではaiko本人に話を聞く機会を得た。年齢を重ねライフステージの変化があっても、今はまだ“恋愛”というテーマに勝るものはないというaikoにラブソングに対する率直な思いを聞いた。(編集部)
“せつない”という感情をいつもそばに置いている
――aikoさんが最初にラブソングを書いたのはおいくつのときでしたか?
aiko:19歳のとき、オーディションを受けるために書いたんですよ。そのオーディションはカバーでもよかったんですけど、私はどうしてもデビューしたかったし、デビューするなら自分の曲がよかったので、「じゃあ曲を作ろう!」と思って。高校3年生のときに付き合っていた彼氏に振られて、まだ未練があったので、「アイツを振り向かせる方法」(5thシングル『桜の時』収録/2000年)という曲を書きました。それが最初ですね。
――初めて曲を作るにあたって、恋愛をモチーフにすることは自然な流れでした?
aiko:自然でしたね。きっと当時から恋愛以外のことにあまり興味がなかったんだと思います。恋愛をすると毎回、新しい気持ちが生まれるので、それがおもしろいんですよ。私にとってすごく身近にあって、心が動かされるのが恋愛なんです。それは歳を重ねた今も変わらない部分というか。むしろ大人になると初めての感情を抱くことって少なくなるじゃないですか。だから興味は一向に薄れることがないっていう。
――現在に至るまで一貫してラブソングを紡ぎ続けているのは、恋愛に勝る興味の対象が出てきていないからですか?
aiko:そうですね。他にはない(笑)。いくつになっても恋愛がおもしろいから。他のことを書いたほうがいいって言われたこともあったんですけど、どうしても書けないんですよね。それはきっと他のテーマで曲を書いたとしても最後まで責任が取れないからというのもあると思います。恋愛に関しては自分の心の中でしっかりといろんな着地点があって、そこに対して自分なりに考えた上での責任が取れるけど、他のことだとそうはいかないというか。だから自分はまだ恋愛以外のことを書いたらあかんのかなって思ったりするんですよね。
――そこがクリアになれば恋愛以外のモチーフの曲が生まれる可能性もあると。
aiko:書きたいと思うときが来たら、その可能性はあるのかなと思います。でも今のところは全然ないですね(笑)。
――リスナーとして他のアーティストのラブソングを積極的に聴いてきたりもしましたか?
aiko:そんなに多くは聴いてこなかったような気がします。というよりも、昔の私は歌詞をきちんと理解して音楽を聴くことが少なくて。メロディやサウンドの良さに意識を注いで音楽を聴くタイプだったんです。最近は歌詞を意識しながら聴くようになりましたけど、でもやっぱり初めて聴いたときに感じるインパクトは曲の方が大きいんですよね。
――ということは、aikoさんの歌詞の書き方は誰かに影響されたものではないということですよね。すべて自ら編み出していったものだと。
aiko:そうなんかな。自分ではよくわからないんですけどね(笑)。私の場合はとにかく本当に思ったことを書くだけというか。その時々で思ったこと、感じたことを言葉にしている感じなんですよ。歌詞はだいたいワンコーラス分をバーッと書いていくことが多いです。
――aikoさんの歌詞にはaikoさんならではの視点による比喩表現が散見されますが、それはあまり意識的に盛り込んでいるものではないのでしょうか?
aiko:それも思ったことや目に見えていることを言葉にしただけという感じなんです。例えば「ナキ・ムシ」(2ndシングル表題曲/1999年)に〈この部屋で5分の出来事/白い影が消えては映す〉という歌詞がありますけど、〈白い影〉っていうのは加湿器から出る湯気のことで。それが目についたから、そのまま書いたんですよね。
――でも、そこで「加湿器の湯気が消えては映す」とは書かれていないわけで。何かしらの変換が作用していそうです。
aiko:確かにそうですね(笑)。見たものを変換するのがクセになっているところはあるのかもしれないです。私はマンガが好きなんですけど、中でもコマの中にあるモノローグの言葉が好きなんですよ。
――セリフではない、心情を現した言葉ですよね。
aiko:そういう言葉はちょっとロマンチックだったりするじゃないですか。だからそういう感覚で、見たものを違う言い方に変換している部分があるのかもしれない。……そこもあまり意識的にやっているわけじゃないんですけどね。だから、「この言い方で大丈夫なんかな」って不安になったりすることもありますよ(笑)。
――では、ラブソングを書く上で意識しているルールや流儀みたいなものはありますか?
aiko:例えば“ケータイ”とか“LINE”とかのように、流行りの言葉、その時代を象徴する言葉は使わないようにしているところはありますね。〈暗闇でいじる電話のライトが〉(25thシングル表題曲「milk」/2009年)という書き方でケータイだということを表現したりはしますけど、直接的な言葉は使わない。以前よりはちょっと緩和されてきているとは思うんですけど。
――その裏には、すべての曲に普遍性を持たせたいという思いもあります?
aiko:そうであればいいなっていう感じかなぁ。そこもあまり深くは考えていないというか。その時々で書きたいことを書きたいように書くというところだけはずっと変わらないです。
――曲によって、ストレートに想いを吐き出していることもあれば、逆に比喩を多用して受け取り方に幅を持たせている場合もある。その違いはどこに起因しているんですかね?
aiko:ストレートに書いているときは、すごく怒っているときだと思います(笑)。「わー!」っとそのままの気持ちで書いているから、曲にしたときに収まりきらないくらいの文字数になっていることもありますね。「これ、『ロード』(THE虎舞竜)やったら何章まで行くんやろう?」みたいな(笑)。逆に、その日にあったことを夜中に歌詞として書くときは、心を一旦落ち着けて言葉にすることができるんですよ。お風呂に入っているときに頭の中にあるものを拾っていきながら、「あ、今の私はこれを言いたいな」って思ったりすると、そのときはちょっと比喩が多めの歌詞になったりすることが多いですね。
――比喩を多く使うことで意図的に主題をぼやかしたりすることもあります?
aiko:比喩が出てくるときは、やっぱりそのときの感情からの連想なんです。例えばお風呂でのぼせてしまったときに、「あれ、前にもこういう感覚を味わったな」って思ったら、それは好きな人としゃべってるときにドキドキして恥ずかしかったときだった、みたいな。それを比喩として書いていくっていう。
――aikoさんの楽曲には常にせつなさが潜んでいるように思います。それはご自身でも認識している部分ですか?
aiko:はい。そういう感情に落とし込む曲が好きなんだと思います。それは性格にも関係してるような気がします。私は子供の頃、身体が弱くて。友達や好きな人といても、「この人と逢うのが今日で最後だったらどうしよう」とか「離れ離れになるときが来たら耐えられないから、そんなに仲良くならないようにしよう」って常に思ってしまっていたんです。以前よりもだいぶ薄れてきてはいるんですけど、根底にはそういう感覚が未だにある。だから私は“せつない”という感情をいつもそばに置いているし、それが曲にも出てくるんだと思います。
――では、曲に落とし込む恋愛観の変化を感じることもありますか?
aiko:あんまりないかなぁ。ただ、好きになってもらうためには自分がちゃんと好きだと伝えないといけないなと思うようになったのは、昔とはちょっと変わったところかもしれないですね。好きになってほしいとやみくもに願うのはわがままだなって。『どうしたって伝えられないから』(14thアルバム/2021年)の「いつもいる」みたいな曲が書けたのも、自分の知らない間に少しずつ変化してきたからなのかなとも思うし。とは言え、今の考え方が正解かもわからないし、これから先もいろんな気持ちになっていくんだろうなとは思っていて。そこに抗わないでいたいなっていう想いもありますね。