aikoが愛され続けている理由ーー『Love Like Pop vol.19』最終公演でわかったこと

aikoライブの音楽的魅力を考察

 今年5月にリリースした通算12枚目のオリジナル・アルバム『May Dream』を携え、同月21日より千葉県・市川市文化会館大ホールを皮切りに、およそ4カ月にわたるツアー『Love Like Pop vol.19』を実施してきたaikoが、9月17日、東京・NHKホールにて最終公演をおこなった。

 客電が落ち、タイトルロゴ『Love Like Pop vol.19』がスクリーンに映し出されると、会場からは大歓声が巻き起こる。バックライトを浴び、ステージ中央に登場するaiko。ボーダー柄をモチーフにしたアシンメトリのドレス。まるでケイトウの花のような赤いペティコートが、モノトーンの衣装の中で程よいアクセントになっている。

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 まずは『May Dream』のリードトラック「何時何分」でしっとりと幕を開けたステージは、続く「プラマイ」で一気にスパーク。洗練されたコード進行に、抑揚たっぷりのメロディという「aiko印」の楽曲を、ザクザクと空気を切り裂くようなエレキギター、ひたすらエモーショナルなリズム隊がグイグイと引っ張っていく。レーザーやストロボをふんだんに使った空間に鳴り響く、グランジ風の「どろぼう」、ホーンセクション(トランペット、サックス、トロンボーン)を加えての、モータウンビートとお囃子をミックスしたような「milk」と、アップビートなナンバーを畳み掛け、すでに序盤から会場は興奮の坩堝と化した。大掛かりなセットやギミック、同期演奏などにほとんど頼らず、生の演奏と「歌」のみで勝負する姿勢には、彼女の「ロック魂」を垣間見たようだ。

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 その後もアルバム『May Dream』からの楽曲を中心に、新旧織り交ぜながらライブは進んでいく。中盤では「今日、初めて演奏します」と言った後に新曲「微熱」を披露。9月21日にリリースされた、通算36枚目のシングル『恋をしたのは』(映画『聲の形』主題歌)のカップリング曲であり、ザ・シャイライツやインプレッションズ(カーティス・メイフィールドが所属していたバンド)ら、シカゴソウルを彷彿させるミドルテンポの楽曲。演奏が終わると、ホッとしたのか「すごい緊張した...」とつぶやき笑いを誘った。

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 中盤は、ピアノによる弾き語りのコーナー。客席から一言ずつ「お題」をもらい、それをつなぎ合わせて即興で歌詞を作り、その場で作曲しながら歌うというもの。客席には南海キャンディーズの山里亮太の姿もあり、途中、彼が指名されると会場からは驚きの声が上がった。客席から集められた全く脈絡のない言葉を使って、しばらく考えた末にヘヴィなブルースアレンジで、ちゃんとオチまで付けて歌うaiko。こんな途轍もない「離れ業」を、平然とやってしまうのだから恐れ入る。

 そのままピアノの弾き語りで「愛だけは」「September」と歌った後、再びバンドを呼び込みラストスパート。「帽子と水着と水平線」「キスする前に」「イジワルな天使よ 世界を笑え」とアップテンポな楽曲を畳み掛け、会場のボルテージも最高潮に。疾走感あふれるギターロック・チューン「Loveletter」で幕を閉じた。

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 それにしても、本編だけでも全19曲。ほとんど水分補給も休憩も取らずにとびきり難易度の高い楽曲たちを、時には激しく踊りながら、歌い切ってしまうとは、もう、ただただ呆気にとられるばかりだ。ファンとの「間合いの取り方」も絶妙で、渋谷のタワレコでファンに声をかけたエピソードを紹介し、客席をどよめかせる「無防備さ」を見せる一方で、MCの際に観客からどんな「変化球」が飛んできても、それをちゃんと笑いに変えて打ち返す。「ファンの気持ちを出来る限り大切にしたい」という思いもあるのだろう。

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