米津玄師「M八七」はヒーローソングの新たなスタンダードに? 『シン・ウルトラマン』主題歌としての意義を考察

 2022年の目玉作品の1つ、映画『シン・ウルトラマン』の公開が目前に迫ってきた。コロナ禍による公開延期を挟んでいたため、いよいよだと待ち望んでいる人も大勢いることだろう。内容へのさまざまな考察が飛び交っている一方で、米津玄師が歌う主題歌「M八七」も大きな話題を呼んでいる。

 禍威獣、禍特対、外星人、神々しいウルトラマン……釘付けになる要素満載の予告編の中で流れる「M八七」。低音のどっしりしたビート、壮大なメロディ、緊張感をたたえたストリングスなど、どこを取っても胸が高鳴る1曲だ。現状聴くことができるのは、〈君が望むなら それは強く応えてくれるのだ/今は全てに恐れるな 痛みを知る ただ一人であれ〉というサビの一部のみ。多様な解釈ができる一節だが、ジャケット写真やタイトルが“ウルトラマンありき”なものになっていることを思うと、ひとまずウルトラマンと照らし合わせながら聴いてみるのが妥当だろう。

映画『シン・ウルトラマン』予告【2022年5月13日(金)公開】

 助けを求める人の元に駆けつけ、手を差し伸べるウルトラマン。1966年にお茶の間に初めて姿を現して以来、さまざまな怪獣や侵略者と戦い、地球の平和を守ってきた代表的なヒーローだ。〈君が望むなら それは強く応えてくれるのだ〉はそんな誰かにとってのヒーローを思い起こさせる歌詞になっていて、〈光の国から ぼくらのために/来たぞ われらの ウルトラマン〉という「ウルトラマンのうた」(1966年/『ウルトラマン』主題歌)を米津流に再解釈した言葉と読むこともできそうだ。ちなみに「ウルトラマンガイア!」(1998年/『ウルトラマンガイア』オープニング主題歌)には、〈ギリギリまで がんばって/ギリギリまで ふんばって/どうにも こうにも/どうにもならない そんな時/ウルトラマンがほしい!〉という、ウルトラマンとは何たるかをストレートに歌った歌詞があったが、そうやって最後まで諦めない人を決して見捨てず、〈強く応えてくれる〉ヒーローという視点が、「M八七」に引き継がれているとも言えるだろう。

みすず児童合唱団、コーロ・ステルラ「ウルトラマンのうた」

 対して、〈今は全てに恐れるな 痛みを知る ただ一人であれ〉から浮き彫りになるのは、ヒーローの苦悩である。ウルトラマンと同化するも、周囲に自らの正体を打ち明けられない主人公は絶えず孤独を抱えるが、それでも守りたいもののために必死に戦っていくーーこれが歴代ウルトラマンシリーズの定石。だからこそ仲間と理解し合い、歩み寄ろうとする過程にドラマが生まれるし、孤独から一歩外に出られたときには大きく成長しているものだ。例えば、「英雄」(2004年/『ウルトラマンネクサス』オープニング主題歌)では〈闇が怖くてどうする/アイツが怖くてどうする/足踏みしてるだけじゃ/進まない〉という、孤独な戦いに向かうヒーローの背中を押すような歌詞が印象的だった。「Trigger」(2021年/『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』オープニング主題歌)では〈自分が何者か誰も教えてくれない/自らを導いて出すべき答えがある〉と歌い、最後は自分自身で“何を信じるべきか”にたどり着くことの大切さを訴えた。心の闇に呑まれそうになっても、恐れることなく未来を切り拓いていく強さは、全てのウルトラマンに通じるテーマなのかもしれない。

doa「英雄」
Trigger(特撮ドラマ『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』オープニングテーマ)/ 佐久間貴生【Official VIdeo】

 だが、心の傷を背負いながらも生きていこうとする姿勢は、もっと普遍的なメッセージとして受け取ることも可能だろう。それを歌ってきたのが、まぎれもなく米津玄師である。〈あの日の苦しみ〉をまといながらも〈あなたはわたしの光〉なんだと歌う「Lemon」を筆頭に、消えない痛みと共に前進していく「馬と鹿」、間違いか正解かに左右されるのではなく、信じたものを〈ただ強く思うだけ〉と歌う「まちがいさがし」などを収録したアルバムのタイトルが、『STRAY SHEEP』なのである。暗闇の中でも、その時なりの答えと決意を歌にしてきたのが米津玄師というアーティストだ。

米津玄師 MV「馬と鹿」Uma to Shika

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