Mr.Children、30年間の変遷を歌詞から紐解く 時代ごとに浮かび上がる、桜井和寿の等身大な姿とは

活動休止後に現れ始めた“父としての桜井和寿”

 そして、深海まで潜った彼らが再び浮上するのは、1998年。活動休止宣言から約1年半後のことである。本格的な活動再開を告げるシングル曲となったのは「終わりなき旅」。タイトルからしてシンボリックな「終わりなき旅」には、活動休止直前のダウナーな詩世界から抜け出し、希望に満ちたチアフルな言葉が並ぶ。〈閉ざされたドアの向こうに 新しい何かが待っていて/きっと きっとって 僕を動かしてる/いいことばかりでは無いさ でも次の扉をノックしたい/もっと大きなはずの自分を探す 終わりなき旅〉というサビのフレーズでは、希望に満ちた救いのあるメッセージが提示されており、『深海』『BOLERO』の時期の苦悩を乗り越えた彼らだからこその説得力がそこにはある。

Mr.Children 「終わりなき旅」 MUSIC VIDEO

 以降も18thシングル『口笛』や19thシングル『NOT FOUND』(ともに2000年)をリリースするなど、音楽シーンの第一線に返り咲いた彼ら。バンドとしても円熟期に入り精神的にも余裕が生まれてきたこの時期から、少しずつ顔を出し始めたのが、父としての桜井和寿の姿だ。「子供にとって親こそがヒーローなのではないか?」(※2)と感じたことから着想を得た24thシングル『HERO』(2002年)や、〈子供らを被害者に 加害者にもせずに/この街で暮らすため まず何をすべきだろう?〉のような刺激的なフレーズが飛び出す11thアルバム『シフクノオト』(2004年)収録の「タガタメ」から、父としての桜井の視点が浮かび上がってくる。13thアルバム『HOME』(2007年)では、モチーフを親子の関係から家族との関係に拡大し、このアルバムのフィナーレを飾る「あんまり覚えてないや」では〈キャッチボールをしたり 海で泳いだり/アルバムにだって貼り付けてあるんだもの/ちゃんと覚えてるんだ ちゃんと覚えてるんだ/ちゃんと覚えてるんだ こんなに〉〈世界中を幸せに出来はしなくたって/このメロディーをもう一度繰り返す〉と家族愛や手の届く範囲の幸福を歌にしている。青春時代の甘酸っぱい恋愛が等身大のリアリティだった桜井が、社会に揉まれ内省世界に潜り込み、そしてそこから抜け出した先で、家族の大切さを悟るというストーリーを思うと、『HOME』の持つ説得力がことさら強く感じられる。

Mr.Children 「HERO」 Music Video
Mr.Children「タガタメ」from Stadium Tour 2015 未完

セルフプロデュースで手にした力強さとリアリティ

 そして、日常に寄り添い、祝福する「彩り」や「エソラ」のような楽曲が生まれていくなかで、より普遍性の高いテーマに根ざした楽曲が多く発表されたのが2000年代後半から2010年代前半。「GIFT」や「HANABI」などのヒット曲を絶えず生み出し、ベテランアーティストとして揺るぎない地位を獲得した彼らだが、それでもなお、バンドの歩みは止まらない。18thアルバム『REFLECTION』(2015年)で、Mr.Childrenはデビュー23年にして大きく舵を切る。デビュー当時から続く小林武史によるプロデュースからセルフプロデュースへのシフト。そんな新たな船出への不安、そして何よりメンバー4人で音を鳴らすことへの期待感が、収録曲の「Starting Over」に表れている。〈あいつの正体は虚栄心?/失敗を恐れる恐怖心?/持ち上げられ 浮き足立って/膨れ上がった自尊心?〉〈「何かが終わり また何かが始まるんだ」/そう きっとその光は僕にそう叫んでる〉など、どちらも彼らの新たな一歩にかける思いを強く感じることができるフレーズだ。

Mr.Children「Starting Over」Live from TOUR 2015 REFLECTION

 最新アルバム『SOUNDTRACKS』(2020年)は、生々しいバンドサウンドを軸にメンバー4人ならではの親密さが結実したセルフプロデュース体制以降の集大成的な1枚に仕上がっている。「起伏のない日々が少しでもカラフルに見えるようなサウンドトラックになればいいな」(※3)と桜井が語るように、この作品は「彩り」や「エソラ」で掲げたテーマをより音楽的な解釈で形にしたアルバムのように思える。収録曲のなかでも、桜井の心境の変化を顕著に読み取れるのが「Documentary film」。〈君の笑顔にあと幾つ逢えるだろう/そんなこと ふと思って〉〈枯れた花びらがテーブルを汚して/あらゆるものに「終わり」があることを/リアルに切り取ってしまうけれど〉のようなフレーズから想起されるイメージは、老いや死。否応なく訪れる最期と向き合う「Documentary film」の詩世界を思うと、デビューアルバム『EVERYTHING』に収録されている「CHILDREN'S WORLD」での〈何か大きな事を しでかしたくて/ウズウズしている/いつも 大人の声に 聞き耳立てて/ビクビクしている/そんな CHILDREN'S WORLD〉のようなジュブナイルなテーマから、随分遠くまでやって来たような感慨深い気持ちにさせられる。

Mr.Children 「Documentary film」 from “MINE”

 このようにMr.Children30年の歴史を辿ると、その時々の桜井和寿自身の姿が作詞に投影されていることがわかってくる。そんな、等身大で率直な言葉だからこそ、多くの共感を呼び、何年経っても広い世代に親しまれ続けることができるのだろう。「名もなき詩」の一節〈あるがままの心で生きられぬ弱さを/誰かのせいにして過ごしている/知らぬ間に築いていた 自分らしさの檻の中で/もがいているなら〉に続く〈僕だってそうなんだ〉という一言に、「こういう思いを抱くのは、自分だけではないんだ」と何度勇気づけられたかわからない。そこに、全ての作品に通底する桜井の飾らない素直な魅力が詰まっている気がしてならないのだ。

※1:『【es】Mr.Children in 370 DAYS』(角川書店)より
※2:『別冊カドカワ 総力特集 Mr.Children』(角川書店)より
※3:https://natalie.mu/music/pp/mrchildren

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