八木海莉、1st EP『水気を謳う』は高いポテンシャル示す作品に 自身で作詞作曲手掛けた全曲を最速先行レビュー
2002年生まれのシンガーソングライター、八木海莉が4月27日、1st EP『水気を謳う』をリリースする。
TVアニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』における主人公ヴィヴィの歌唱で話題を集め、昨年12月に1stシングル「Ripe Aster」(TVアニメ『魔法科高校の劣等生 追憶編』主題歌)を配信リリースするなど、確実に注目度を高めてきた彼女。自身で全曲の作詞作曲を手がけたEP『水気を謳う』は、シンガーソングライターとしての高いポテンシャルを示す作品に仕上がっている。
まずはこれまでのキャリアを簡単に紹介しておきたい。小学生のときに地元・広島のダンススクールに通い、歌とダンスを習っていた八木海莉。小学校6年生のときに受けたオーディションの際、歌うことの気持ち良さを実感したことで、アーティストを志すようになったという。
中学卒業後すぐに単身で上京し、オーディションを受け始めた彼女。思うような結果が出せず、ライブもできない状況が続くなか、YouTubeでの弾き語りカバー映像の投稿(ヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」、きのこ帝国「クロノスタシス」、神聖かまってちゃん「フロントメモリー」など)をはじめ、オリジナル曲の制作もスタートした。自力でアーティストとしての基礎を積み上げてきた彼女に転機が訪れたのは、2021年。前述したTVアニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』にて主人公ヴィヴィの歌唱に抜擢されたのだ。主題歌「Sing My Pleasure」で「レコチョク上半期ダウンロードランキング2021」の 新人アーティストランキングにて1位を獲得した八木は、その魅力的な歌声によって急激に存在感を強めた。
12月18日には“八木海莉”名義のデビュー曲「Ripe Aster」を配信リリース。作詞は八木海莉、作曲は八木、おかもとえみ(フレンズ)の共作によるこの曲は、繊細さと芯の強さを共存させたメロディ、〈揺るがない 譲れない 此処にいる/信じ続けて〉という歌詞が響き合うミディアムバラード。この歌詞には、どんな状況でも“アーティストとして活動する”という思いを貫いてきた彼女自身の経験が反映されている。
EP『水気を謳う』は、シングル「Ripe Aster」と同時期に制作された。前述した通り、すべての楽曲の作詞作曲を彼女自身が担当。“水”にまつわる楽曲が多かったことから、このタイトルが付けられたという。
1曲目の「お茶でも飲んで」は、メジャーデビュー前にMVが公開され、ファンの間でリリースが熱望されていた楽曲。心地よい起伏を描くメロディ、〈お話にならないの〉〈厄介ね〉というシニカルな色合いのフレーズをちりばめたリリックからは、彼女の個性豊かなソングライティングセンスが伝わってくる。ファンクネスをたたえたベースライン、軽快なギターカッティングなどを融合させたアレンジは、ボカロP“23次元P”としても知られる16歳のクリエイター、皆川溺が担当。彼女の凛としたボーカリゼーションを的確に際立たせている。
続く「SELF HELP」は、〈今日が続けばいい/音の端くれ 好きにしてくれ〉というラインから始まる。未来に対する怯え、現状に対する不満を抱えながらも、〈これが今の幸せ/納得させようと必死さ〉と自分に言い聞かせるようなリリックは幅広い層のリスナーの共感を呼びそうだ。アシッドジャズ的な雰囲気を感じさせるサウンドメイク、楽曲後半の転調の気持ち良さにも惹きつけられる。