Lucky Kilimanjaroが『TOUGH PLAY』で表現した“好き”を追い求め続ける強さ 「革命としての音楽は作っていない」
自分の中で持っている発想や感情を、そのまま吐き出したい
ーーすごく人間的というか、生活感がある。そういうものですよね、Lucky Kilimanjaroのダンスミュージックは。
熊木:最近思ったんですけど、僕にとってダンスミュージックって、みんなで盛り上がれるものというよりは、自分との対話の音楽なんです。反復運動の中で自分が更新されたり、新しい自分が見つけ出されていく感覚ーーそういうものに自分は惹かれているんだなと思う。やっぱり、情報量が少ない中で体が踊るっていう行為がもたらすものってあると思うんです。止まっていると何も思い浮かばないけど、歩くことで発想が浮かんだりすることってあるじゃないですか。あれと同じで、変調した周期を入れることによって、自分の中に変化が生まれたりするんじゃないかって。
ーー作品の中に「声」を多用したというお話もありましたけど、そういう部分も含めて「Headlight」で繰り返される〈声を聴け〉というフレーズは、アルバムを象徴するようなフレーズですよね。
熊木:そうですね。情報で処理しないで、自分の感情でいろいろなものを聴いて、いろいろなものを感じて、いろいろなものを好きになることが大事だと思っていて。そういうことを改めて書こうと思ったときに、〈声を聴け〉と歌うことがしっくりきました。ここでいう〈声〉っていうのは、他者が発している声もそうですし、自分が内側で発している声もそうですし、楽曲の中で使われている声もそうです。
ーー「Headlight」はアルバムのハイライト感のある曲ですけど、そこで終わらずに「人生踊れば丸儲け」というあっけらかんとした曲、そして「プレイ」というアウトロ的な楽曲で終わっていくのがいいですよね。さっきお話に合った「カラッとした感じ」が出ている。
熊木:「人生踊れば丸儲け」は、イメージとしてはインド映画のエンドロールで登場人物たちが物語を無視して一緒に踊り始めるような感じで作りました(笑)。「Headlight」で終わると、ちょっと“Think”に行き過ぎちゃう感じがあるなと思って。“Think”ももちろん大事だけど、今回は“Do”の方に舵を切りたかったから。みんなが身体を動かせるような楽しい終わり方でアルバムを終わらせることは意識していました。
ーー最後の「プレイ」で使われているのは、「I’m NOT Dead」のサンプリング素材ですか?
熊木:そうです。自分で作ったサンプリング素材をiPhoneのボイスメモで録音して、そのまま音源にしました。
ーー最後の最後に入っている物音は?
熊木:僕の部屋の扉の音ですね。「プレイ」は「遊ぶ」という意味でもあり、音楽を「再生する」という意味でもあり、あと、「祈り」も「pray」というじゃないですか。いろんな「プレイ」がありますけど、僕が部屋から出ることで、この「プレイ」が他の人にもどんどんと伝わっていけばいいなと思って、こういう終わり方にしました。
ーーこのアルバムを作って、ご自分の中の「偏り」や「好き」を見つめ直したと思うんですけど、改めて熊木幸丸とはどんな人物なのか、自分自身で気づくことや思うことはありましたか?
熊木:どうだろう……度々、「天邪鬼だな」とは思いますね。「なんでこんなに流行っていることをやりたくないんだろう?」って自分で思っちゃうんですけど(笑)。
ーー(笑)。
熊木:やっぱり、僕は面白いことをやりたい人間なんだなと思います。音楽を表現するからにはちゃんと自分の「面白い」と思うものを出したいなと思う。雑でもいいんです。自分の中で持っている発想や感情を、そのまま吐き出したい。そして、それが人と違うものでありたい……そういう感覚はずっとありますね。整理されていない感じとか、スーツを着れていない感じは、今回のアルバムにはちゃんと出たなと思うんですけどね(笑)。
ーー出てますね(笑)。
熊木:音楽を世に出すとき、常に「これでしょ!」っていう感じがあるんです。もちろん、「これ、どうですか?」って丁寧に差し出すようなコミュニケーションも大事だと思うんですけど、僕はいつもどこかで「これでしょ!」と思ってる。我が強い人間です(笑)。
ーー(笑)。最後に、「果てることないダンス」の冒頭で、〈どうかしてると思う/やめられないのだ/ここらでゲームオーバー/で、幾数年/幾数年〉と歌われているじゃないですか。この部分を熊木さんはどういった思いで綴られたのか、すごく気になったんです。
熊木:そこは、結構、何回も書き直した歌詞なんですよね。音楽を作っていると、細かいところで挫折することばかりですし、「これ、意味あるのかな?」って思ったりすることもあるんです。「ディレイを何ミリにしようかな……」って細かくやっている作業とか、「意味ある?」って思っちゃうときもあるんですけど、「これだ! 最高!」と思う瞬間があって、その瞬間が自分の中でめちゃくちゃ楽しいんです。そういう瞬間をずっと追い求めている。それって冷静に見ると「どうかしている」と思われるのかもしれないですけど、でも、やめられないんですよね。やっぱり自分はこれが好きだし、やりたいんです。その何ミリの音の調整も、やりたいからやっている。めげることもあるけど、「これが俺のやりたいことなんだよな」って思いながらめげ続けている感じなんです(笑)。
ーーめげながら続いていく感覚は、自分に置き変えてもすごくしっくりきます(笑)。
熊木:僕は昔からあまり物事が続かないタイプだったんですけど、音楽はなぜか続いていて、気づいたら「あれ、これで生活しているな」という感じがあって(笑)。でも、みんなきっと同じような感じなんじゃないかと思うんですよね。出来心で始めたものが、なんとなく続いていて、なんとなく不安もあって、「自分、どこかおかしいんじゃないかな?」って思いながら、でもそれが好きで、こだわりがあって、続けていく。音楽家だけなくて、きっとみんなそんな感じなんじゃないかなと思います。
■リリース情報
3rdフルアルバム
『TOUGH PLAY』
3月30日(水)リリース
1.I'm NOT Dead
2.踊りの合図
3.ZUBUZUBULOVE
4.果てることないダンス
5.ぜんぶあなたのもの
6.無敵
7.週休8日
8.楽園
9.足りない夜にまかせて
10.無理
11.Headlight
12.人生踊れば丸儲け
13.プレイ
MUCD-1483/¥2,970.-(including tax)
オフィシャルサイト:http://luckykilimanjaro.net/