AA= 上田剛士、『錆喰いビスコ』でしか作り出せない新しい音楽 ヘヴィなサウンドでアニメを彩る劇伴制作の裏側

上田剛士、『錆喰いビスコ』劇伴制作の裏側

偶然生まれた「ぶち抜け!」はアニメの中でも重要な曲に

ーーサントラの後半には、アニメの盛り上がりにリンクしたテンションの高い楽曲が目白押しで。DISC2の14曲目「筒蛇」はタイトル通り、筒蛇というクリーチャーが登場するシーンで聴くことができました。

上田:はい。第6話で筒蛇が出てきましたね。この物語に出てくる生物たちはちょっとユニークで不思議なものばかりなんですけど、その中でもとりわけ筒蛇は怖い感じというか(笑)。原作を読んだときにも、「とにかくヤバいヤツ」みたいな感じですごく印象に残っていました。楽曲を作るにあたっては、どこか有機的で、でもあり得ないくらいの巨大さや不気味さを持っている筒蛇をイメージしたつもりです。

ーーこの曲では1曲の中でシーンが変わる展開が用意されています。上田さんはAA=でもそういった手法をよく使っている印象がありますよね。

上田:この曲に関しては、めちゃくちゃデカい生き物が登場して、それにビスコたちが立ち向かっていく様子を全体として表現しているので、途中で展開が変わるところは彼らが戦い始めたというイメージなんです。展開を見せることが目的ではなく、自分が思い描いているストーリーを意識しながら表現していくと自然とそうなるというか。おっしゃっていただいたようにAA=でも1曲の中で展開がいろいろ変わることを特徴として捉えてくださる方は多いんですけど、それも案外、自然な流れなんですよ。自分の中で意識的に変えようとしているわけではないという部分はAA=も劇伴もあまり変わらないところです。そう考えると、それが自分の音楽性の特徴のひとつではあるのかもしれないですけど。

ーーDISC2の20曲目「悪神降臨」は、禍々しいパワーを放つ最重要楽曲と言えます。サウンドから漂うラスボス感がすごいですよね。

上田:アニメのクライマックスにすごいヤツが出てくるので、それに負けないようにっていう気持ちで作りました。このキャラクターは物語のキモになるとも思うので、絶対に出会いたくない、ヤバさマックスな雰囲気を音でも表現していきました。出会った瞬間、「終わった……」と思うくらいの(笑)。この曲のイメージは最初から明確にありましたね。

ーーそしてサントラは「ぶち抜け!」でエンディングを迎えます。これはどんな位置づけの曲になるのでしょうか?

上田:これはもともと音楽メニューの中にはなかった曲で。バトルという括りで曲を作る中で生まれたバリエーションのひとつだったんですよね。自分としては一番ストロング感、ユナイト感みたいなものが出た曲だと感じていたので、使われるかどうかはわからなかったんだけど、「こういうのも作っちゃったので聴いてみてください」と言って先方にお渡しして。結果、気に入っていただけた感じなんです。

ーー他にもそういった経緯でサントラに収められた曲もあるんですか?

上田:DISC1の16曲目に入っている「バトル」もそうだったと思います。作品全体の世界観のイメージが僕の中でわりとはっきりしていたので、いろんなパターンが作りやすかったんですよ。言ったら勝手に作ってしまった曲なわけですけど、それを気に入っていただき、実際に使っていただけるのはすごく幸せなことですね。

アニメスタッフ:「ぶち抜け!」はバトル中にも結構使わせていただいていますが、物語の最後の最後にはっきりした理由をもって使っている場所があります。なのでサントラでも最後に収録しました。最終話を観れば、きっと「これか!」とわかっていただけると思いますよ。

ーー上田さんは以前、Twitterで「劇伴というにはあまりにも上田剛士な歪音が聴けます」と発言されていましたが(※1)、今回は本当に面白い劇伴作品になりましたね。

上田:自分としては楽しんで作らせていただきましたけど、ここまで主張が強い曲ばかりでOKなのかという思いは正直ありましたよ(笑)。ただ、一緒に劇伴をやらせていただいた椿山日南子さんの楽曲との対比がすごく面白いものになったとも思っていて。自分は基本的に戦いであったり、マッチョな部分をメインに担当させていただきましたが、椿山さんは心情的な部分をすごく美しく表現してくださっているので、作品としてすごくバランスがいいものになっていますよね。

ーー椿山さんがいたからこそ、上田さんはご自身の音楽性を思いきりぶつけることができたのかもしれないですね。

上田:そうですね。わりと役割がはっきりしていたので、振り切った音作りができたと思います。椿山さんの楽曲は本当に素晴らしいですからね。その才能をすごく尊敬しています。

ーーちなみに普段、アニメを観ることはあるんですか?

上田:アニメ自体はそんなに詳しくはないし、普段から観る習慣はないんですよ。だから今回もアニメというよりは、映画の劇伴というイメージで捉えていたかもしれません。

ーー映画の劇伴で印象に残ってるものはありますか?

上田:自分たちの畑から出ている作家としては、トレント・レズナー(Nine Inch Nailsのメンバー。『ドラゴン・タトゥーの女』『パトリオット・デイ』『ソウルフル・ワールド』などの映画で音楽を手掛けている)が一番わかりやすいですよね。音楽を手掛けている人がわかっている場合は、映画を観ながら劇伴も同時に注目することは多いかもしれないです。

ーーここからアニメ『錆喰いビスコ』はクライマックスへ突入していきます。最後に、毎週楽しみに視聴している人たちへ一言いただけますか。

上田:アニメは後半になるにしたがってどんどん盛り上がっていくし、自分の音楽も激しく盛り上がっていくので、最後の最後まで楽しめる作品だと思います。自分も毎週楽しみに観ているので、皆さんもぜひ一緒に楽しんで欲しいですね。サントラに関しても、普通のサントラとはちょっと違う、ひとつの音楽作品としてものすごく面白いものになっているので、そちらも合わせて楽しんでいただければ嬉しいです。

※1:https://twitter.com/_aaequal/status/1481240280380899334?s=20

Ⓒ2021瘤久保慎司/KADOKAWA/錆喰いビスコ製作委員会

『「錆喰いビスコ」オリジナルサウンドトラック』

■リリース情報
『「錆喰いビスコ」オリジナルサウンドトラック』
2022年3月16日(水)¥3,740(税込)
<収録曲>
ディスク1
01.RUN!!~錆喰いビスコ メインテーマ~
02.風の音さえ聞こえない 【TV-EDIT】
03.城砦都市
04.ナイトクラブ
05.違和感
06.巡廻
07.錆とキノコ
08.遺物
09.チェイス!チェイス!
10.黒革
11.急襲
12.路地裏
13 一触即発
14.紫煙
15.ビスコとミロ
16.バトル
17.錆喰いの血
18.想いと願い
19.緊迫
20.想い出
21.押し問答
22.熱弁
23.バディ!!
24.ミロの決意
ディスク   2
01.帰還
02.悔恨
03.糸繰り茸
04.だりー
05.覚悟
06.遭遇
07.魅惑のくらげ商店
08.真実
09.仲間
10.チロル
11.過去の出来事
12.別れ
13.因果
14.筒蛇
15.対峙
16.荒野を行く
17.爆撃
18.本能の戦い
19.臨戦態勢
20.悪神光臨
21.己の尊厳
22.咆哮 【TV-EDIT】
23.ぶち抜け!

■放送情報
TOKYO MX:毎週月曜日 24:30~25:00
読売テレビ:毎週月曜日 25:59~26:29
BS11 :毎週月曜日 24:30~25:00

<スタッフ>
原作:瘤久保慎司『錆喰いビスコ』(電撃文庫刊)
原作イラスト:赤岸K、原作世界観イラスト:mocha
監督:碇谷敦、副監督:又賀大介、シリーズ構成・脚本:村井さだゆき
キャラクターデザイン:浅利歩惟 碇谷敦、総作画監督:浅利歩惟 井川典恵
メインアニメーター:松原豊 河合桃子 豆塚あす香 竹知仁美、動画監督:張逸暉
美術監督:三宅昌和、美術・クリーチャー設定:曽野由大
色彩設計:千葉絵美、撮影監督:高木翼、編集:木村祥明
音楽:上田剛士(AA=) 椿山日南子、音楽制作:フライングドッグ、音楽監督:小泉紀介
アニメーション制作:OZ
題字:蒼喬

<キャスト>
赤星ビスコ:鈴木崚汰、猫柳ミロ:花江夏樹
猫柳パウー:近藤玲奈、大茶釜チロル:富田美憂、ジャビ:斎藤志郎、黒革:津田健次郎
ほか

TVアニメ「錆喰いビスコ」オフィシャルHP:https://sabikuibisco.jp/

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