伊東歌詞太郎、自らの音楽に宿してきた前進する意志 シンガーソングライターとしての個性を確立してきた歩み

伊東歌詞太郎、音楽に宿してきた前進する意志

 活動のフィールドやジャンルの枠を超え、どこまでも自由に表現するアーティストであると同時に、“歌”と“言葉”に対するこだわりと美意識は徹底して一貫している。初のベストアルバム『三千世界』で伊東歌詞太郎は、自らのアンビバレントな在り方を改めて示してみせた。

 “歌ってみた”楽曲、オリジナル曲、そして新曲「絆傷(キズナキズ)」を収録した本作。人気曲、代表曲だけではなく、彼自身のこだわりによってセレクトされた収録曲には、既存のアーティスト像を踏襲することなく、新しいメディアにも果敢にトライしながら独創的なスタイルを築き上げた、伊東歌詞太郎のこれまでの活動の軌跡が刻まれている。

伊東歌詞太郎 — BEST ALBUM「三千世界」について

 学生時代からバンドのボーカリストとして活動していた伊東は、その解散後、ニコニコ動画に歌唱動画の投稿を開始(現名義での最初の投稿は「メルト」のアコースティックバージョン)。卓越したボーカル技術とエモーショナルな表現によって瞬く間に注目を集め、翌年に最初のミニアルバム『my little white cat』をリリースした。この作品から「小夜子」(作詞・作曲:みきとP)、「チルドレンレコード」(作詞・作曲:じん)が今回のベストアルバムに収録されているが、シャープな声質、生々しい感情をたたえたボーカリゼーションは今聴いても極めて鮮烈。まさに伊東歌詞太郎の原点と言える楽曲だろう。

【伊東歌詞太郎】チルドレンレコード【2022】

 その後もインターネットの音楽シーンで知名度を上げた彼は(2010年代前半は“ネット発の音楽”というスタイル自体が目新しく、新しいジャンルとして認識されていた)、その勢いのままメジャーデビューを果たし、1stアルバム『一意専心』をリリース。「ピエロ」(作詞・作曲:ハヤシケイ)、「しわ」(作詞・作曲:buzzG)といった人気ボカロPによる楽曲を中心にした本作は、オリコン週間アルバムランキング4位を記録し、一気にブレイクを果たした。翌年リリースした2ndアルバム『二律背反』は、今回のベスト盤にも収められている「I Can Stop Fall in Love」「パラボラ〜ガリレオの夢〜」「僕だけのロックスター」など、15曲のうち8曲がオリジナル曲。“歌い手”から“シンガーソングライター”への過渡期的な作品となった。

【GUMI】I Can't Stop Fall in Love【伊東歌詞太郎】
【伊東歌詞太郎】「パラボラ~ガリレオの夢~」(2nd Full Album『二律背反』)/【Ito Kashitaro】Palabora
【伊東歌詞太郎】僕だけのロックスター【歌ってみた】

 転機となったのはおそらく、その直後のミニアルバム『ほしねこ』に収められた「北極星」(ベスト盤DISC2の1曲目)だろう。北極星=〈いつだって変わらずある光〉をモチーフにしたこの曲は、爽快感に溢れたビート、鋭利なギターサウンド、解放的なメロディが1つになったアッパーチューン。「理解されてなくても、理想と違っていてもいい。〈「いつまでもここにはいない」〉という思いとともに進んでいくんだ」という決意を込めたリリックは、伊東歌詞太郎の根源的なモチベーションとも強く重なり、ファンの圧倒的な支持を得た。『ほしねこ』に収録された8曲のうち3曲(「北極星」「Role Praying」「ミルクとコーヒー」)がベスト盤に収められていることも、この作品に対する思い入れの強さが伺える。

【伊東歌詞太郎】北極星

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