CHEMISTRY、日本の音楽シーンに与えた多大な影響 20周年ベストアルバムリリースを機に紐解く

CHEMISTRY、日本の音楽シーンに与えた影響

 20周年を迎えたCHEMISTRYからベストアルバム『The Best & More 2001〜2022』が届けられた。

 mabanua、関口シンゴ、Shingo Suzukiなどorigami PRODUCTIONS所属のクリエイター陣によるリメイク楽曲とオリジナル楽曲、堂珍嘉邦、川畑要がそれぞれセレクトした楽曲、さらに新曲「終わらない詩 feat.麗奈」を収録。20年の軌跡と現在進行形のプロダクツが体感できる本作は、CHEMISTRYがこの国の音楽シーンに与えた多大な影響を改めて証明している。軸になっているのは、“日本におけるR&Bの在り方”そして“新たな男性ボーカリスト像の提示”だろう。

 1999年に行われたオーディション番組『ASAYAN』の企画「男子ボーカリストオーディション」をきっかけに生まれたボーカルデュオ・CHEMISTRYは、2001年にデビュー。90年代後半におけるUSのR&Bの流れを取り入れたサウンドメイク、伝統的な日本の歌謡曲の情緒とブラックミュージック経由のフロウを融合させた歌によって、この国の音楽シーンに新たなムーブメントを生み出した。

 オーディションが行われた前年の1998年は、日本のR&B元年だった。1998年2月にシングル『つつみ込むように…』でMISIA、12月にはシングル『Automatic/time will tell』で宇多田ヒカルがデビュー。さらにDOUBLE、嶋野百恵などブラックミュージックをルーツに持つアーティストが次々と登場し、わずか1年の間に女性R&Bブームが巻き起こったのだ。この潮流のキーパーソンは、“CHEMISTRYの生みの親”として知られる音楽プロデューサーの松尾潔。80年代後半にR&B、ヒップホップ系の音楽ライターとして世に出た彼は、久保田利伸の制作に関わったことをきっかけにプロデューサーとしての活動をスタート。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューの際にブレーンとして参加した松尾が、初めてデビューさせた男性アーティストがCHEMISTRYだったというわけだ。

 デビュー曲「PIECES OF A DREAM」を皮切りに、「Point of No Return」「You Go Your Way」「君をさがしてた〜New Jersey United〜」「My Gift to You」など、松尾潔プロデュースのもと、ヒット曲を次々と放ったCHEMISTRY。日本ではマニアックなジャンルとして捉えられていたR&Bのテイストを反映させながら、幅広い層のリスナーが楽しめるように日本語のポップスに導いた彼らの功績は、きわめて大きい。

CHEMISTRY "PIECES OF A DREAM" Official Video
CHEMISTRY "Point of No Return" Official Video
CHEMISTRY - You Go Your Way / THE FIRST TAKE

堂珍嘉邦と川畑要というボーカリストが生み出す化学反応

 CHEMISTRYは(松尾の言葉を借りれば)“お箸の国のR&B”を確立させたわけだが、その最大の要因はもちろん、堂珍、川畑というボーカリストが生み出す化学反応だった。オーディションに参加した当時は2人とも20代になったばかりだったが、ピッチの正確さ、R&B系のトラックを乗りこなす感性、瑞々しさと色気を兼ね備えた堂珍、川畑のボーカル/ハーモニーは、2000年代初めの音楽シーンに新鮮な衝撃を与えた。 

 『ASAYAN』のオーディションは、やはり松尾がプロデュースすることになるEXILEのEXILE ATSUSHI、EXILE NESMITH(EXILE、EXILE THE SECOND)などが参加していたことでも有名だが、その後の日本の男性ボーカリストの活性化や広がりを含め、分水嶺的な役割を果たしたイベントだったと言えるだろう。また、番組を通してデビューまでのプロセスを視聴者に届けることで、ボーカリスト志望の若者に“自分にもチャンスがあるかもしれない”と思わせたことも大きな意味があったはずだ(たとえば、同じく松尾のプロデュースでアーティストとして再デビューを果たした松下洸平も、10代の頃にCHEMISTRYを聴き、歌っていたという)。

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