アラン・ウォーカーが迎えた成熟の季節 新アルバムで実感するクリエイティビティの進化

アラン・ウォーカーが迎えた成熟の季節

 コロナ禍によって音楽シーン全体に大きな影響が出ていることは言うまでもないが、その中でも特に深刻なダメージを受けているのがナイトクラブやフェスといった空間で、踊り、楽しむことが一つの前提となっているダンスミュージックシーンである。世界中で多くのフェスが中止となり、クラブの営業も制限、あるいは完全に停止され、世界中のDJらが活躍できる場がなくなってしまった。日本国内でもこの問題は極めて深刻であり、2020年の春以降、長年に渡り愛されてきたクラブなどが閉店へと追い込まれている。そして2022年を迎えた今もなお、ダンスミュージックを愛する人々にとって辛く厳しい日々は続いている。

 その中で一筋の光となったのが、昨年秋に開催された『SUPERSONIC 2021』である。日本を代表するフェス『SUMMER SONIC』の番外編的な位置づけで行われた同フェスでは、出演アーティストの約半分がDJ/プロデューサーという、ダンスミュージックシーンで活躍してきたアクトが非常に重要な役割を担っていた。特にフェスの目玉となるヘッドライナー勢に関しては、海外の大物DJ/プロデューサーがラインナップされ、「もしかしたら、二度とこんな光景を見ることはできないのだろうか」という不安に駆られていたファンに対して、救いとも言えるような希望を与えた。

SUPERSONIC 2021 – Special Movie

 そんな同フェスにおいて、一際大きな存在感を示していたのがアラン・ウォーカーである。当初はゼッドに続く2ndヘッドライナーとしてフェス初日への出演が決まっていたが、他アーティストの出演キャンセルを受け、急遽ゼッド、スティーヴ・アオキと共にB2B2Bを披露したのである。おそらく他の海外フェスでもまず実現することはないであろう超豪華なサプライズセットにリスナーは大いに盛り上がった。そして、このセットで最後にプレイされたのが、アランの代表曲「Faded」である。

Alan Walker – Faded

 2017年の初来日を皮切りに、翌年の『EDC Japan』への出演及びソールドアウトが続出したジャパンツアーの開催、そして2019年には『SUMMER SONIC』に出演、さらには小島秀夫監督によるビデオゲーム作品『DEATH STRANDING』のインスパイア―ドアルバムへの楽曲提供など、着実に活動のスケールを拡大してきたアランだが、盛大な花火をバックに「Faded」が流れたあの瞬間は、彼の日本国内における活動の一つの集大成だったと言っても過言ではないだろう。

 そんなアランの最新アルバムである『ワールド・オブ・ウォーカー』の日本盤が本日1月12日にリリースされた。2018年にリリースされた前作『ディファレント・ワールド』以来となる今作は、まさに彼がブレイク以降に歩んできた道のりを辿り、どのような進化を遂げたかを強く実感できる作品となっている。

 1曲目を飾るのは、クリストファー・ノーラン監督による映画『インセプション』を象徴する楽曲「Time」をアラン・ウォーカー流に再構築した「Time (Alan Walker Remix)」。彼自身がリスペクトして止まない映画音楽界の巨匠であるハンス・ジマーが手掛けた原曲の、穏やかな波がゆっくりと寄せては返し、やがてとてつもなく大きな脅威へと変貌していくような感覚を、ダンスミュージックの持つ反復性と強靭なエレクトロサウンドによって大胆かつ見事に再定義している。この1曲だけでも、彼のクリエイティビティが以前よりも遥かに進化していることをすぐに感じることができるだろう。ちなみに今作にはアルバム終盤でも、同じくハンス・ジマーによる映画『ザ・ロック』に使用された「Hummell Gets The Rockets」のリミックスが収録されており、同氏の手掛ける音楽、そして関わってきた映画の数々が今作の制作における大きなインスピレーション源になったようだ。一見意外に感じられるかもしれないが、ドラマティックで映像を想起させるアランの作風を踏まえると、むしろ納得のいく組み合わせではないだろうか。むしろそれらのリミックスと、自身によるオリジナル楽曲が同居しているにも関わらず、あくまで一つの作品として全く違和感なく聴けるという、彼の作曲スキルに驚かされる。

Hans Zimmer & Alan Walker – Time (Official Remix)

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