つじあやのが描く、ありのままの女性として生きること 妻、母、アーティスト……様々な経験がもたらした“出会い”

つじあやの、ありのまま女性として生きること

「頑張ろうって言うより、誰かとわかり合えることが救いになる」

ーー「にじ」は子育て中の母としての感情ですよね。

つじ:そうですね。子供は今、成長過程で、自分と同じように試練が待っていたりする。小さいけれど、簡単な試練は日々あって。例えば、友達がおもちゃを貸してくれないとか、着替えができないとか。そういう姿を見守っていこうという気持ちは大事だなと思って書いた曲ですね。癒されるし可愛いけど、それだけじゃなくて、怒ったり叱ったりすることもある。そういった全部を含めて、宝物のように大切だなと感じて。それも新たなに生まれた感情なので、これは絶対に歌にしたいなと思って作りました。

ーー子育ての経験を歌にすることには抵抗はなかったですか。家族やプライベートを完全に切り離してるアーティストさんもいますよね。

つじ:それはなかったですね。歌に関しては、常にその時その時を正直に書いてきたから。ただ、家族のことだけを歌うということにもならないかなとは思います。

つじあやの - 泣き虫レディバード(Live at VICTOR STUDIO 2020)Short ver.

ーーでは、「泣き虫レディバード」はどんな心情ですか?

つじ:これは、恋も仕事も頑張っていた10年前くらいの独身時代を思い出して作った曲ですね。恋愛だけじゃなく様々なプライベートがあったり、仕事があったり、いろんなことで悩んでる人はいっぱいいるだろうなと思ったんですね。例えば、友達がそんなにいなくて、恋人もいなくて、家族とも離れて暮らしていると、自分一人になることが多くて、孤独を感じる期間ってあると思うんですね。その時を振り返って作った歌ですね。

ーー〈理由もないのに涙が出るって〉という歌い出しから苦味と痛みを感じますよね。〈今年でいくつになるんでしょうか〉というフレーズにも胸を痛める人も多いと思います。

つじ:自分もそうやって歳を重ねてきたなと思って。10年前くらいかな、東京から京都の実家に帰ってずっと一人で仕事していたんですけど、誕生日が来るのが嫌でした。誰もおめでとうとか言ってくれないし、母も覚えてなくて(苦笑)。まだ、音楽があってよかったなとは思ってましたけど。

ーー1月6日だから、まだみんな正月休み中だったりしますもんね。

つじ:そうなんですよ。飲みに行きたくても誰も誘ってくれへんし、もう誕生日が来なければいいのにって思ってました。

つじあやの

ーーこの曲でも〈さよなら〉と歌っているのは、どうして?

つじ:そんな自分が嫌だったんですよね。恋人が欲しいなと思っていたりするし、もっと幸せになりたいなって思っていたりする。でも、これも今の自分に至る“過程”ですね。「そんなに誕生日にこだわらなくてもいいと思うけど、まあそれでも頑張れよ」って、昔の自分を応援したいという気持ちかな。

ーーアルバムのラストナンバーが「おやすみなさい」というのは、どんな想いで?

つじ:昨年からコロナが世界中に立ち込めて、頑張ろうという言葉が本当に似合わないなと思って。医療従事者の方々は本当に頑張っていましたけど、亡くなった人に会えなかったり、お葬式ができなかったりしましたよね。死を共有して悲しむことができなくなる。最後に会えないことがあるなんて、考えたこともなかったんですよね。それって希望も何もないんじゃないかと思ってしまって。立ち向かうことでもないよな、ただただ沈黙するしかないのかな、コロナにかからないようにじっとするしかないのかな……と思った時に、もう寝てしまおう、ストーリーを閉じてしまおうと思って。自分の曲の中ではあまりなかったんですけど、絶望の中で、絶望のまま終わるという曲ですね。でも、それを歌にすることが癒しになるのかなって思ったんです。頑張ろうって言うよりも、誰かとわかり合えることが救いになるのかもしれないなと。

つじあやの – 明日きっと(Music Video)

ーーそして、配信シングルとしてリリースされた「明日きっと」は、このアルバムの中でどういう立ち位置なんでしょうか。

つじ:この中では異色だけど、一番つじあやのっぽい曲で、実は最後にできた曲なんです。アニメ『舞妓さんちのまかないさん』(NHK Eテレ)のオープニングテーマとして書き下ろしていて、コロナで2年間帰っていなかった地元・京都が舞台になっています。舞妓さんになりたい女の子たちを支える、同い年のまかないさんのストーリーで、本当に自分がよく通った京都の風景が出てくる。それがすごく懐かしくて、単純にその子たちに頑張って欲しいなという応援の気持ちを込めて作りました。だから自分に対しても応援してるのかな。この曲は「風になる」みたいに、キラキラして前向きな音をつけてあげたいなと思って、アルバムの中で飛び抜けて明るくなりました。ある意味、この曲が異色なんだろうなと思ってます。

ーーMVは鴨川付近での撮影なんですか。

つじ:いや、実は大分県で撮ったんです。京都にしようかなとも思ったんですけど、アニメに寄せ過ぎずに、明るくて爽やかな風が吹き抜けるような作品が撮れたらいいなと思って。たまたまお願いした制作会社の方が大分を選んでくれて、それが偶然にも母の故郷だったことがすごく嬉しくて。行ってよかったなって思ったし、大分で頑張っていらっしゃる女性の姿と自分の歌が重なった、爽やかな映像になったなと思います。

つじあやの

ーー最後の曲を作ったことで、“明日”は見えましたか?

つじ:そうですね。ドロドロした部分、今までにないつじあやのを見せようと思って作ってきて、一番最後に解放されたような気がしました。あまり何も考えず、ポンっと出てきた曲がすごく前向きだったんです。自分はやっぱりこういう曲が好きなんだなって。原点回帰じゃないですけど、こういう曲を自分は求めているし、書いていて楽しいなって思いました。

ーー改めて最後に、〈さよなら〉ばかりのアルバムに『HELLO WOMAN』と名付けた意味を聞かせてください。

つじ:自分を振り返ったときに、特にこの10年、結婚、出産、子育てといった、女性としてのいろんな経験をさせてもらって。でも、だからと言って大人になったとも思えないし、成長したともそんなに思えなくて。その時々で、理想とする女性像はあったんですけど、全然なれなかったし、今もなれていない。でも、未完成なりに頑張っていた自分が真実だなと思って。言いようのない寂しさがあって未完成なままでも、女性として生きている。みんな、たぶんそうだよなって。このアルバムでそんな女性に出会えたので、『HELLO WOMAN』というタイトルをつけました。

ーー今後はどんな未来を望んでますか。

つじ:やっぱりコロナ禍でなかなか未来というものが描けないんです。この先、本当にどうなっていくかわからないですけど、自分は歌を作ることがすごく好きなので、ずっとソングライティングをすることができたらいいなと思いますね。あと、一人の女性としては、未完成のまま暮らしていく、それでいいのかなと思ってます。今はこういう女性になりたいという理想像はないし、もうあまり求めなくなっている。やりきれないものを秘めているのが人生なのかなって。ただ、中途半端に逃げたくはないので、目を背けることなく生きていきたいです。

つじあやの HELLO WOMAN
つじあやの『HELLO WOMAN』

■作品情報
つじあやの『HELLO WOMAN』
2022年1月6日(木)発売
パッケージ:https://lnk.to/220106AL
DL&Stream:https://jvcmusic.lnk.to/HELLOWOMAN
・初回限定盤(CD+LIVE DVD)¥4,500税別
・通常盤(CD)¥3,000税別

<収録内容>
CD
01.アンティーク
02.明日きっと
03.泣き虫レディバード
04.シンデレラ
05.お別れの時間
06.Killer Queen
07.朝が来るまで
08.ただの人
09.にじ
10.おやすみなさい
DVD(初回限定盤のみ付属)
『2020.9.21 “ビクタースタジオから歌をこめて” Live at VICTOR STUDIO 302st』
01.クローバー
02.風になる
03.泣き虫レディバード
04.パレード
05.愛する人へ
06.Sweet Happy Birthday

■先行配信情報
つじあやの「明日きっと」
12月22日(水)配信
DL&Stream: https://jvcmusic.lnk.to/AshitaKitto

つじあやの Official HP:https://tsujiayano.com/

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