AI、希望を持ってチャレンジし続ける大切さ 森山直太朗との『カムカムエヴリバディ』主題歌制作から得たもの

AI『カムカム』主題歌制作を語る

 AIが歌うNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の主題歌「アルデバラン」が11月1日に配信リリースされた。作詞・作曲は森山直太朗、アレンジは斎藤ネコが担当。20年に渡ってジャンルの垣根を超えたポップスを歌い続け、今年だけでもAwichや三浦大知、¥ellow Bucksなどと印象的なコラボレーションを重ねてきたAIにとっても、今回はサウンド、歌詞ともに新たな扉を開く1曲だと言えるだろう。受け取った瞬間「ヤラれた!」と思うほどいい曲だったという「アルデバラン」について、森山直太朗との制作や、AI自身が試行錯誤したという歌い方などの面から語ってもらった。(編集部)

AI - 「アルデバラン」Recording Behind The Scene

「今までの私の曲にはない驚きを感じられた」

ーー新曲「アルデバラン」は作詞・作曲を森山直太朗さんが手がけられていますが、今回の森山さんとのタッグには意外な驚きがありました。

AI:自分としては意外性を狙ったつもりは全くなかったんですけどね。単純に今回の曲をいただいたとき、ナチュラルに感動できたんですよ。「ヤラれた!」みたいな。それくらいいい曲だったので歌わせていただいたっていう、すごくシンプルなことで。

ーーどんな流れで森山さんへのオファーに至ったのでしょうか?

AI:今回はNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の主題歌ということで、まずは自分で書いてみたんですよ。トータルで10曲くらい書いたかな。その中には他の方にトラックを発注して、そこに私が歌詞を乗せた曲もありました。でもね、「これだ!」となる曲がなかったんですよ。チームで話し合いをしてみても、満場一致で「いいね!」と思える曲がなかった。いいと言う人が過半数いたとしても、あまりグッと来ていない人が1人でもいるのであれば、それは違うという判断をしていたので、結果として10曲くらい作ることになりました。

ーーその過程で森山さんに白羽の矢が立ったと。

AI:うちの事務所の社長がテレビを観ていたときにすごく惹かれた曲があったらしくて、調べたら直太朗くんが書いた曲だったと。その流れで「直太朗くんに書いてもらったらいいんじゃない?」って勧められたんですよ。それを聞いた瞬間は意外だったから「え、マジで!?」とは思ったんだけど(笑)、私は直太朗くんのライブを何度も観ているし、よくよく考えてみると「いいかもしれないな」と思えたんです。それでお願いしてみたところ、快くやっていただけることになって。

ーーその決断ができたということは、森山さんの音楽性に何かしらのシンパシーを抱く部分があったんでしょうか。

AI:そうですね。彼の作る曲は明るく行き切ってない感じがするというか、そういう部分が私は好きだったので、もしかすると自分にも合うんじゃないかなっていう思いはありました。音楽的にマニアックさを感じる部分もあるし、文句なしに歌が上手いところにも魅力を感じていたので。あと、たまたま私のメイクさんが直太朗くんのお母さん(森山良子)のメイクもやっている方なので、彼の子供の頃の話を聞いたりもしていて(笑)。だから人柄に対しての壁がなかったのも良かったと思うんですよね。とはいえ、実際に曲をいただいてみないと、やる/やらないの判断はできないとは思っていましたけど。

ーーそして届いた「アルデバラン」が最高な仕上がりだったと。

AI:そうそう。届いたものを聴いた瞬間、もう感動してしまって。ギターとピアノのシンプルなサウンドの上で直太朗くんが歌ってくれているデモだったんだけど、メロディがもう本当に素晴らしかったんですよ。私の好きなメロディラインでもあるんだけど、同時に今までの私の曲にはない驚きを感じられたというか。ソウルを感じさせてくれるメロディでもあったので、すぐに「この曲を歌いたい!」っていう気持ちになりました。

ーー森山さんにオファーをするにあたって、曲の方向性や歌詞の内容など、何かオーダーはしたんですか?

AI:基本的にはほぼお任せでしたね。NHKの連続テレビ小説の主題歌になるってことすらも言ってなかったです。

ーーえ、そうなんですか!

AI:うん。お伝えすると、やっぱりそこを意識しすぎた楽曲になってしまうものなんですよ。だから今回に関しては、あまりいろんなことを意識せず、普段の直太朗くんのままで作ってもらった曲がいいかなと思ったんです。単純に直太朗くんが考える、AIに歌わせたい曲を作って欲しいっていう。ただね、これは後々聞いた話なんですけど、この「アルデバラン」はこちらがオファーする前から私をイメージして作っていてくれたものだったそうなんですよ。彼の中で歌詞とメロディが降りてきたときに「これはAIちゃんに歌ってもらいたい」と思ったんですって。その後に偶然、私たちが今回のオファーをしたという流れで。

ーー運命を感じさせる話ですね。

AI:その話を聞いたとき「ほんとにぃ?」ってちょっと失礼な私は思っちゃいましたけど(笑)、でも確かに曲を聴けばメロディの流れや、強さ、節回しみたいな部分もすごく自分に合ってるなって思ったんです。本当に私をイメージしてくれたんだろうなって。

オーケストラの生演奏で感じた“音楽を改めて好きになる瞬間”

ーー歌詞の内容もこれまでAIさんが大切にしてきたメッセージと共鳴するものだと思いますし、ドラマの内容にもしっかり寄り添っている印象がありますよね。

AI:若干、手を加えてもらったところはありますけど、歌詞はデモの段階からほぼ変わっていないです。しょっぱなの〈君と私は仲良くなれるかな/この世界が終わるその前に〉っていうフレーズからもうヤラれましたよね。「超わかってるな、この人」って思った(笑)。私自身もそういう思いを持って生きているので、この部分だけで「この曲には共感できる!」って感じられました。私は結構ボーイッシュな感じで歌詞を書くことが多いので、今回の歌詞にある〈私だってそうよ〉みたいな女性的な言い回しはあまりしないし、ワード選びには直太朗くんのセンスがすごく見えていると思うんですよ。でも、それすらも私はすごく歌いたいって思えたんですよね。普段の私じゃ言わないようなニュアンスであっても、「言っていいんだ!」って素直に嬉しくなれて。そこは自分で歌詞を書いていないからこそ楽しめる部分ですよね。あと「アルデバラン」というタイトルもすごく印象的で。

ーーアルデバランは冬の空に輝くおうし座の一等星で、プレアデス星団を追いかけるように登ってくることからアラビア語で“後に続くもの”という意味の名前がつけられたそうで。それもまた、100年の時代を3人のヒロインが繋いでいくドラマの物語にもしっかりリンクしていますね。

AI:自分ではなかなか思いつかないタイトルですけど、「アルデバランって何だろう?」ってすごく引っ掛かりを生んでくれるじゃないですか。そこには意味もしっかりあるわけだし、やっぱり直太朗くんはすごいですよ。全部が完璧に考えられているなって思いましたね。

ーーこの曲で行くと決めた後は、どんな作業をしていったんですか?

AI:まずは直太朗くんのスタジオに行って、そこにいらっしゃったピアニストの方の演奏に合わせて歌いながら細部を詰めていった感じですね。デモの構成を軸としながらも、テンポ感とか、どんなコーラスを入れるのかみたいなことを決めました。デモは1番と2番だけで終わっていたので、もうちょっと盛り上がるところが欲しいなと思って、ブリッジを付け加えたほうがいいんじゃないかっていうお話もさせてもらいました。当初はもうちょっと暗いトーンだったんだけど、朝のドラマで流れる曲だから最終的にはポジティブな印象に持っていきたかったんですよ。なので、後半に向けてワッと盛り上がって行く流れを意識して作ってもらうようにしました。そこで全体像が決まった後に、今度はアレンジをお願いした感じですね。

ーーアレンジは斎藤ネコさんによるものですね。

AI:斎藤ネコさんとは『Sound Inn “S”』(BS-TBS)という番組で以前ご一緒したことがあって。そのときに私の「Music Is My Life」という曲を斎藤さんがアレンジしてくださったんですけど、それがものすごく良かったんですよ。「LAで鹿児島のお酒を飲んでる雰囲気で」というオーダーを元にアレンジしてくれたそうなんですけど、本当にその通りのサウンドになっていて感動したんですよね。今回は久しぶりにドラマチックなバラードだから、斎藤さんに壮大なアレンジをしてもらったら合うんじゃないかなと思ってお願いしてみたところ、想像を上回る素敵な仕上がりにしてくださって。また感動しちゃいましたね。

ーーストリングスが楽曲の世界観をよりふくよかに彩ってくれていますよね。

AI:オーケストラのレコーディングにも立ち会わせてもらったんですが、「せっかくだから生演奏に合わせて歌ってみれば?」って言われて。いやー、本当に気持ちよすぎましたね(笑)。鳥肌がぶわっと立ちました。生の演奏は本当に素晴らしい。音楽を改めて好きになる瞬間でしたね。そうやって全体のオケができ上がった後、最後に私が本番の歌を入れていって。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる