YOASOBI、Ado、ずっと真夜中でいいのに。……絶えぬタイアップで感じた“ネット発”からの解放
ボーカリストたちの活躍もめざましい。「春を告げる」で一躍名を馳せたyama。元々歌い手としてカバー曲を投稿していたが、くじらが楽曲提供した初のオリジナル曲「春を告げる」がスマッシュヒット。Billboard Japan Hot 100では最高7位を記録した。その後、2020年10月にメジャーデビューしてからは怒涛のタイアップラッシュ。メジャーデビュー曲となった「真っ白」が『恋愛ドラマな恋がしたい〜Kiss On The Bed〜』(ABEMA)の主題歌に使用されたのを皮切りに、2021年11月にリリースされた2ndシングル『Oz. / 世界は美しいはずなんだ / スモーキーヒロイン』は、なんと3曲すべてがタイアップソング。さらに注目したいのは、楽曲提供者だ。孤独にそっと寄り添うようなピアノバラード「Oz.」は泣き虫、ストリングスが華やかに盛り上げる「世界は美しいはずなんだ」はACIDMAN・大木伸夫、鮮やかに踊り狂うようなサウンドが展開される「スモーキーヒロイン」は川谷絵音がそれぞれプロデュースしており、業界内で活躍の枝葉を広げることとなった。
そして、「うっせぇわ」の言葉通り殴り込むような荒々しさで登場し、シーンをねじ伏せたのがAdoだ。syudouが描く、建前の中に隠されたダークな本音を、圧倒的な歌唱力で完璧に体現してみせたAdoは、またたく間に音楽シーンのスポットライトの中心に立った。以降、すりぃによる「レディメイド」、Giga×TeddyLoid×DECO*27による「踊」と、実力派の音楽家たちと組んだ楽曲をリリース。曲自体にパンチ力があるのはもちろんのこと、そこにAdoが歌を乗せることでさらに鮮烈な力を放つそれらの楽曲は、Adoの確かなボーカル力を裏づけるものとなった。
そして今年8月、映画『かぐや様は告らせたい 〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 ファイナル』の挿入歌として、サビのストリングがドラマチックなバラード「会いたくて」、10月には主人公・大門未知子の強さと奔放さがAdoのカラーと絶妙にマッチした「阿修羅ちゃん」が『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(第7シリーズ)の主題歌に。どの楽曲でも確実にAdoらしさを発揮し、唯一無二性を見せつけ続けている。
ここまでに述べたアーティスト達は、ネット上に音楽を投稿し、それが発見され、広められることでメジャーアーティストとなっていった。曲ごとに違った音楽家と組む歌い手であるAdo、yamaは特にわかりやすいが、大元を辿ればニコニコ動画などから始まる投稿文化は、例えばボカロPが投稿したボーカロイド曲を歌い手がカバーし、それに絵師がイラストをつけ、動画師がアニメーションにする……というように、それぞれが才能を持ち寄る形で作品を進化させてきた。
歌い手の2人だけでなく、ずっと真夜中でいいのに。は、フロントマンのACAね以外は曲ごとに流動的なメンバーで構成されている不定形バンドであり、YOASOBIは“すべての曲が小説とのコラボレーション”であり、加えてAyaseはボカロP出身者でもある。彼らの活動の根底に共通してあるのは、自由な発想と環境だ。
かつては同人活動の延長であり、“ネットカルチャー”と称されてきたこれらの音楽は、これまでに挙げてきた楽曲たちが大衆にリーチしはじめたことで、本当の意味でメジャーになりつつある。
さらにこの流れは、新しく参入してきた若い世代だけのものではない。デビュー54年目の和田アキ子がフレデリックとコラボした「YONA YONA DANCE」がTikTokで4億回再生を突破し、『TikTok流行語大賞2021』特別賞を受賞したことは非常に象徴的といえるだろう。この波はいずれ業界全体を巻き込んで、これまでの枠組みを壊し、音楽をより自由なものにしていくのかもしれない。