YOASOBIと同じ空間にいることの特別さ リスナーとの“はじめまして”を叶えた武道館初有観客ライブを観て
本編ラストを締めくくるのは「群青」。7月の配信ライブ『SING YOUR WORLD』でも、フルオーケストラに囲まれながらのパフォーマンスが非常に印象的だったが、今回は武道館の360度客席に囲まれたステージで、観客の力強いクラップに包まれながらの演奏となった。この曲が持つ幸福感、高揚感は、こうして大勢の人に囲まれ、強い熱量の中で奏でられることで真価を発揮するのだと思い知らされる。今はまだ観客が声を出すことはできないけれど、次のライブではぜひ、会場一体となったシンガロングが見たいと強く願う。
アンコールを受け、ライブグッズに着替えた姿でステージに戻ってくると、「アンコールをもらってしまった」と感慨深げなikura。考えてみれば、配信ライブにはアンコールがなく、これが初めて受けるアンコールだ。
「『群青』を歌っている時、この空間は愛にあふれているなと思いました。このライブのためにスタッフの皆さんがステージを作ってくれて、衣装を作ってくれて、私たちが演奏して愛を届けて、それに皆さんが応えてくれる。この空間には愛しかない(ikura)」、「YOASOBIが始まって2年ちょっと。こうして『はじめまして』をするためにずっと準備をしてきて、それが実現できたことを本当に幸せに思います(Ayase)」とそれぞれコメント。そんなAyaseと10年来の友人でもある仄雲に、「照れくさいけど、ここにつれてきてくれてありがとう」と言われ、仄雲の隣に歩み寄って、観客にツーショットを撮ってもらうよう頼む。「これ、エモいんだよ!」と感極まったように言葉を漏らす姿は、10年の絆が垣間見える瞬間だった。そして、「こんなにたくさんの人に音楽を認めてもらえて、楽しんでもらえて、今でも夢のようです。ライブもまた必ずやります。その時に『二度目まして』ができるように、これからもYOASOBIをよろしくお願いします」と改めて感謝を述べた。
「愛と感謝を届けます」というikuraの言葉を受け、音楽そのものに対する愛情と感謝を綴った「ラブレター」が始まる。〈初めまして〉で始まるこの曲の本当の意味が、この日、この会場で演奏され、初めてわかったような気がする。メンバーがステージを去った後、床面にクレジットが流れ、ライブは終幕となった。
「小説をもとに曲を作る」というコンセプトを持つYOASOBIの楽曲は、いわばすべてがコラボレーションであり、一つの物語へのレスポンスである。誰かの物語を受けて音楽を生み出し、それをさらに聴く人がいる。初の有観客公演という記念碑的なライブであるとともに、YOASOBIが誕生した時から持つその円環が具現化されたような、象徴的なライブとなった。