はっぴいえんど再結成の貴重なステージも 松本隆、作詞活動50周年記念コンサート『風街オデッセイ2021』2日間を振り返る
松本隆の作詞活動50周年記念コンサート『〜松本 隆 作詞活動50周年記念 オフィシャル・プロジェクト!〜 風街オデッセイ2021』が、11月5日、6日の2日間、日本武道館で開催された。
『風街』と題されたトリビュートコンサートはこれまで、1999年の『風街ミーティング』(渋谷ON AIR EAST)、2002年の『風街クリスマス』(SHIBUYA-AX)、2010年の『風街ガラ・コンサート』(Bunkamuraオーチャードホール)、2015年の『風街レジェンド』(東京国際フォーラム ホールA)、2017年の『風街ガーデンであひませう2017』(恵比寿ザ・ガーデンホール)が開催。数多くのアーティストとともに、松本隆の歌詞の世界をステージで表現してきた。
50周年のタイミングで行われた今回の『風街オデッセイ』は、出演者、会場の大きさを含め、これまでで最大の規模。しかも“はっぴいえんど”が出演するとあって、大きな注目を集めていた。
1日目(11月5日)
イベントは、音楽監督の井上鑑(Key)をはじめ、日本を代表するミュージシャンが揃った“風街ばんど”の演奏のもと、出演者がオリジナル曲、カバー曲を披露する構成で行われた。1日目のトップを飾ったのは、鈴木茂、林立夫のセッションによる「砂の女」「微熱少年」。さらに曽我部恵一がチューリップの「夏色のおもいで」を高らかに歌い上げ、アグネス・チャンが「想い出の散歩道」「ポケットいっぱいの秘密」を当時と変わらぬ可憐なボーカルで披露するなど、時空を超えて受け継がれる、松本隆の歌詞の魅力が冒頭からたっぷりと伝わってきた。
太田裕美による「雨だれ」「木綿のハンカチーフ」や、森口博子が「三枚の写真」(三木聖子)、「リップスティック」(桜田淳子)で昭和歌謡への愛情を示し、大橋純子が「シンプル・ラブ」「ペイパー・ムーン」で武道館を開放的な雰囲気に導く(すごい声量!)。佐藤竹善は原田真二の代表曲「タイム・トラベル」をカバーし、さすがの歌唱力で観客を沸かせた。
会場がさらに大きな拍手で包まれたのは、亀田誠治のコーナーに登場したB'z。“亀田誠治 feat.B'z ”でカバーされたのは、1979年のヒット曲「セクシャルバイオレットNo.1」(桑名正博)。稲葉浩志の叙情性と激しさを共存させたボーカル、松本孝弘のメロディアスなギターソロからは、この曲が持つ“ロック×歌謡”のDNAがはっきりと感じられた。さらに亀田は横山剣(CRAZY KEN BAND)と「ルビーの指環」(寺尾聰)、川崎鷹也とともに「君は天然色」(大瀧詠一)という80年代を象徴する楽曲を披露。今なお色褪せない名曲の魅力を存分に感じることができた。
C-C-B(「Romanticが止まらない」「Lucky Chanceをもう一度」)、イモ欽トリオ(「ハイスクールララバイ」)からはじまったイベント後半では、山下久美子の「赤道小町ドキッ」、早見優の「誘惑光線・クラッ!」、武藤彩未の「夢色のスプーン」(飯島真理)、安田成美「風の谷のナウシカ」など、女性アーティストが次々と名曲を披露。「Woman“Wの悲劇”より」(薬師丸ひろ子)、「瞳はダイアモンド」(松田聖子)という人気曲を圧倒的な歌唱力で表現した鈴木瑛美子も鮮烈なインパクトを残した。
松本隆のミューズの一人、斉藤由貴は「初戀」を歌ったあと、「どこかで見ているはずの松本隆さんが、“やっぱり俺ってすごい”とほくそ笑んでそう(笑)」とコメント。さらに「卒業」を涙交じり(のように聴こえる)に歌い上げた。本編ラストは、太田裕美が歌った「さらばシベリア鉄道」。まるで映画を観ているように脳裏に広がる情景描写、そして、〈疑うことを覚えて/人は生きてゆくなら/不意に愛の意味を知る〉という奥深いフレーズが響き合うこの曲の歌詞は、(同じく太田裕美が歌った「木綿のハンカチーフ」と並び)松本隆の代表作の一つだ。
2日目(11月6日)
『風街オデッセイ』2日目は、伊藤銀次、杉真理、鈴木茂による「A面で恋をして」(ナイアガラ・トライアングルvol.2)からスタート。さらに和製AOR〜シティポップの流れを汲む安部恭弘(「CAFE FLAMINGO」「STILL I LOVE YOU」)、稲垣潤一(「バチェラー・ガール」「恋するカレン」)の大人の男の色香が漂う歌に酔いしれた後、南佳孝が登場。〈Want you 俺の肩を抱きしめてくれ〉という歌詞が響いた瞬間に拍手が沸き起こった「スローなブギにしてくれ(I want you)」のほか、鈴木茂とのセッションによる「ソバカスのある少女」も披露した。
小坂忠が「しらけちまうぜ」を歌ったことも、『風街オデッセイ』の大きな収穫だった。細野晴臣、松本隆とともに伝説のバンド、エイプリル・フールのメンバーとして活動していた小坂。その後、細野と松本ははっぴいえんどを結成、小坂はソロアーティストとして歩みはじめた。「しらけちまうぜ」は、細野のプロデュースによる名盤『HORO / ほうろう』(1975年)の収録曲。45年以上の時を経て、“作詞:松本隆、作曲:細野晴臣”によるこの曲を小坂が披露したシーンは(しかもドラムは『HORO / ほうろう』の演奏を担当したティン・パン・アレーの林立夫)、『風街』の歴史にとっても大きな意味を持っている。
中盤では、星屑スキャット(ザ・スリー・ディグリーズ「ミッドナイト・トレイン」)、堀込泰行(原田真二「てぃーんず ぶるーす」)、藤井隆(「代官山エレジー」)と、多感な時期から松本隆の歌詞に大きな影響を受けてきた世代のアーティストが登場。冨田ラボのコーナーでは、クミコの「フローズン・ダイキリ」、畠山美由紀の「罌粟」、ハナレグミの「眠りの森」など、豊かな表現を持ったシンガーの歌を堪能できた。さらに松本隆、松任谷由実が手がけた「真冬物語」(堀込泰行・畠山美由紀・ハナレグミ)のパフォーマンスも、このイベントならではだろう。
イベントの後半は、テレビアニメ『マクロスF』の挿入歌として制作された中島愛の「星間飛行」、中川翔子の80年代ポップスへの愛と松本隆へのリスペクトが結実した「綺麗ア・ラ・モード」から。続いて登場したさかいゆうは、山下達郎の「いつか晴れた日に」(ボーカルのニュアンスからも達郎への思いが滲み出ていた)、そして、ソウルフルにアレンジされた「SWEET MEMORIES」(松田聖子)を熱唱。会場全体を濃密なグルーヴで包み込んだ。
イベントはいよいよ佳境へ。EPOが披露したのは、「SEPTEMBER」(竹内まりや)。この曲のコーラスアレンジを手がけているEPOは、瑞々しいボーカルによって名曲の豊かな魅力を引き出していた。吉田美奈子は松田聖子の楽曲をカバー。壮大なスケールと繊細な歌心を併せ持った「瑠璃色の地球」、前衛的なジャズアレンジと大迫力のボーカルで観客を圧倒した「ガラスの林檎」のパフォーマンスは、『風街オデッセイ』の充実ぶりを象徴していた。