スピッツ、DREAMS COME TRUE、山下達郎……“食”を通した描写が音楽に与える効果を探る
季節は食欲の秋である。そうでなくても、雑誌やテレビでは毎日にようにレシピや美味しい飲食店が紹介され、SNSには食べ物の写真がたくさん流れてくる。生活に欠かせない食事はいつの時代にも最高の娯楽であり文化だ。映画、TVドラマ、漫画など食を通して世の中や人間模様を描いた作品も数多い。では音楽はどうだろうか。本稿では、音楽の中に「食」を描くことで生まれる様々な作用について、いくつかの楽曲を挙げながら考えていきたい。
料理を通して生活や日々の感情を描いた楽曲
恋心に酸っぱさを混ぜ合わせた「うめぼし」、匂いで高揚感を表現する「ナンプラー日和」など、以前より食べ物にちなんだ楽曲が多いスピッツ。そんな彼らの新曲「大好物」は、料理をし、食事をすることが楽曲のメインテーマとなった。〈日によって違う味にも未来があった〉という一節は、思いがけない出来事が生活にもたらす眩い予感を想起させる。また〈君の大好きなものなら 僕も多分明日には好き〉というラインには特別な愛おしさがこみ上げてくる。嘘のつけない味覚を通して親しみが生まれ、愛慕にも結びつく。料理を通じて生活を描き、そこに生まれる感情を丁寧に捉えた歌詞だろう。
同様のテーマで描かれた楽曲で言うと、Lucky Kilimanjaroの「ペペロンチーノ」も紹介したい。タイトル通りペペロンチーノを作る工程をユーモラスに綴った歌詞が楽しい1曲だが、そこに“日々をより良くしたい”という気持ちも重なり、ポジティブなエネルギーに満ちている。大きな出来事ではなく、料理という日常的な営みだからこそリスナーの共感度も高いはずだ。