次世代覆面シンガー 未完成モノローグに注がれる期待の眼差し ヒット曲「カルメン」に滲む13歳の少女の焦燥
曲が始まった瞬間流れる、咆哮のような「ああ!」という声に、いきなり横っ面をはたかれたような心地がするはずだ。9月23日にリリースされた未完成モノローグの4thシングル「カルメン」は、ボーカルときのはなの力強い歌声が炸裂する。“プロローグ”を終え、新章開幕を告げるにふさわしい、目の覚めるような1曲だ。
未完成モノローグは、13歳のボーカル・ときのはなを中心とした音楽プロジェクト。今年2021年の4月にデビューし、7月までの間に活動の“プロローグ”として「はこにわ」、「デイムーン」、「BREAK」と立て続けにリリースしてきた。「はこにわ」では、学校の教室のような限られた世界で展開される人間関係を、「デイムーン」、「BREAK」では自分らしさや、他者との違いについて、等身大の少女の悩みや迷い、葛藤を伸びやかな歌声で表現してきた。
そして、3曲の“プロローグ”を終え、ときのはなの内面を描く“本編”へと突入した未完成モノローグが9月23日にリリースしたのが「カルメン」だ。楽曲提供は、「あわよくばきみの眷属になりたいな」、「あとのまつり」などを発表してきたPeg。幻想的な雰囲気に少しの毒を垂らしたような世界観と、中毒性のあるサウンドが特徴だ。
『カルメン』はもともとフランス人作家、プロスペル・メリメの小説であり、それをもとにした同名オペラが有名である。情熱的だが移り気で自由奔放な女、カルメンと、カルメンに心を奪われ、最後には彼女を殺してしまう男、ドン・ホセの姿を描いたピカレスク。このモチーフだけでも、等身大の少女の世界を瑞々しく描いてきた今までの楽曲からがらりと印象を変えてきたことがわかる。
Pegによる「カルメン」は、サビのクラップ音とギターフレーズがどことなくフラメンコを思わせる起伏の激しいメロディが、わずか2分30秒の中で高密度に展開されていく。そして、そんな楽曲を乗りこなす、ときのはなのボーカルがすさまじい。先の3曲では、伸びやかな中にも繊細さと幼さが垣間見える、透明感のある歌声のイメージだったが、「カルメン」では一転。これまでのイメージをかなぐり捨てるように、がなり、こぶしをこれでもかというほど効かせたその歌声は、とにかく力強く、攻撃的ですらある。
未完成モノローグを以前から知っていた人は、「カルメン」で披露したこの新しいアプローチに度肝を抜かれたのではないだろうか。逆に、「カルメン」から未完成モノローグを知った人は、デビュー曲の「はこにわ」から遡って聴いてみることをおすすめする。どちらにせよ、ときのはなのボーカルの振り幅に驚かされることは必至だ。そして、そんな歌声で、〈ねえ、ママ。〉、〈かくいう私は箱入り娘〉など、幼さを強調するようなフレーズを歌うものだから、アンバランスさに容赦なく揺さぶられてしまう。