ドミコ、ロックど真ん中を射抜くむき出しの叫び まぼろしから実体へ、生々しさがもたらす新たな興奮

 まぼろし。ドミコを見るたびにそんな言葉を浮かべてきた。

 目に見えてはいるのだ。ルーパーを使いながらギターを幾重にも重ねていくさかしたひかる(Vo/Gt)と、彼が繰り出す音の波をタイトなリズムで束ねる長谷川啓太(Dr/Cho)。たった2人とはいえ、その音は限りなくバンドサウンドに近い。毎回大音量でフロアに響き渡る。

 しかも、無闇な攻撃性を持たないそれは、とても気持ちがいいのである。アッパーなロックンロールは無条件に踊れるし、短尺なガレージナンバーも小気味よいジャンプを促す。濃厚なサイケであっても客は置き去りにされることがなく、私はビール片手にいつまでもへらへらと踊っていられた(早くあの頃に戻りたい)。ただ、跳んだり踊ったり阿呆になったり大満足した後で、「はて、何が楽しかったのか?」と自分に問うてみれば、何も説明できなくてびっくりするのだ。確かなエンターテインメント空間があったのに、そこには実体がない。少なくとも演者の言葉や表情に結びつけて語れるモノが何もない。今のは何だったのかしら。たぶん、まぼろし。ロックンロールっぽい何かのまぼろし。狐に化かされた気分とは、まさにドミコのことを言うのだと思っていた。

 事実、「化けよ」という曲がある。ミニアルバム『VOO DOO?』収録曲だ。2020年春、緊急事態宣言とほぼ同時期に出た作品で、予定されていたツアーは延期。リベンジの公演は同年秋に行われたが、動けない時期の苛立ち、あるいは自宅で浮かぶ次のアイディアも多数あっただろう。「化けよ」は新たなサウンドメイクを施されリニューアル。その前菜的イントロとして新曲「ばける」も生まれた(どれだけ狐の気分なのか)。さらには同作品収録の「問題発生です」もリニューアル。半分は『VOO DOO?』と地続きの、半分は真新しいドミコを提示するもの。それが最新アルバム『血を嫌い肉を好む』である。

ドミコ(domico) / 化けよ(BAKEYO) (Official Video)

 リニューアルの2曲が最もわかりやすい。「化けよ」と「問題発生です」の最新バージョンはとにかく音がいい。ワイドレンジで奥行きもたっぷりのダイナミックなサウンド。バスドラムやタムなど各パーツがクリアに聴き取れるし、ビートははっきりと重い。低音にしても「ギターの低音域で簡易的に作るベースラインっぽいもの」の域を超えていて、パッと聴きは専任ベーシストがいるように感じるだろう。さらにはディストーションを効かせたギターのド迫力。「問題発生です」の締めには前作にはなかったユニゾンが入ってくるが、これがもう、Led Zeppelinもかくやという感じのハードロック的快感に貫かれている。つまり今回のドミコ、ものすごく重厚なロックバンド然としているのである。ギターもドラムも実体ありまくりなのである。

ドミコ(domico) / 問題発生です(MONDAIHASSEIDESU) (Official Video)

 クレジットを確認すると面白い名前が見つかる。ドラムテックに弘中聡(skillkills)。これは前作からの関係だが、今回ギターテック&アドバイザーとして名を連ねるのは石毛輝(the telephones/Yap!!!)。ハードロックとヘヴィメタル大好き、打ち込みも得意だがステージに立てばハイテンションな汗を撒き散らす石毛が本作のギターに大きく関わっているのは、初期を思えば相当に興味深い話である。

 もともとドミコは宅録とバンドの中間地点から始まっている。人前でライブをやることさえ考えていなかったさかしたが、機材を買い揃え宅録にはまることで、ロックバンドとは完全に発想の違う楽曲が生まれていった。それをライブハウスのステージ上で再現するのは苦労しただろうが、ルーパーを使ってバンドっぽい音を出す、たった2人でそこらのバンドより踊れる空間を作る、それで観客を操り最後は狐に化かされたような気分にさせる、そんな企み自体が面白かったのも事実。ロックンロールっぽい何かのまぼろし。それを量産することに最初のアイデンティティがあったとも言える。

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