Kan Sanoが解説する、ディアンジェロがもたらした新しいリズム革命 『Kan Sano Talks About Pop Music』第3回(前編)

Kan Sanoが語る、ディアンジェロのリズム

J・ディラがサンプリングにもたらした革命

 それまで“正しいリズム”で演奏していたところ、ディアンジェロやJ・ディラがもっと自由度を広げることをありにしたんですよね。J・ディラはビートメイカーなのでサンプラーを使ってリズムを打ち込むんですけど、今までのビートメイカーなら、ちょっとリズムがおかしくなったときに「間違えた」と言って、削除してもう1回録り直していたと思うんですよ。でもJ・ディラは、それがカッコいいんじゃないかと言ってそこをループして、新しいビートを作った。そういう考え方がヒップホップのビートメイカーから始まって、ミュージシャンたちも影響を受けて、そういうプレイをするようになったんです。

 音楽は一定のテンポで流れていくので、1拍の長さは絶対に変えられないものなんですね。でも、“1拍の長さの捉え方”は変えられるんです。J・ディラによって、それまでずっと一直線に流れていたリズムが、ちょっとカーブするようになった感じというか。今まで誰もやっていなかったことなので、やっぱりすごいことだと思います。

J・ディラが生み出すサンプリング芸術

 J・ディラはインタビュー嫌いの人なので、あまり言葉を多く残していないんです。『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』は周りのミュージシャンの証言を集めた本で、これを読むと、こういうふうに作っていたとか、とにかく音楽好きでずっとレコードを掘っている人だったことなどがわかります。レコード屋に行って掘るときも、何十枚も買ったりせず、「これ」と決めたものを1~2枚だけ買うらしいので、レコードを買う時点で「ここをサンプリングしよう」みたいなものが頭の中で決まっていたんだと思います。

 J・ディラは楽器も演奏する人なので、音楽的にしっかり成立しているサンプリングもできるんです。ドラムもどこか1小節だけサンプリングしてくるわけではなくて、キック、ハイハット、スネアのパーツごとにサンプリングして、それらを微妙にズレたリズム感で組み替えていく。つまり、サンプリングミュージックなんですけど、まったく新しい音楽を作っているのと変わらない。サンプリング芸術と言ってもいいんじゃないですかね。

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