スピッツ『花鳥風月+』、アルバムチャートで好調 身体性豊かなボーカルが体現する“ロックのダイナミズム”とは?

 特に気になったのは「猫になりたい」のサビだ。この曲は本作のなかでも耳にすることが多く、つじあやののカバーも印象深いし馴染んでいたつもりだった。しかし、「猫になりたい」というタイトルそのままの印象的なフレーズから、〈君の腕の中〉で「きー……」と思った以上に伸びる。実に2拍。なんで今さらこんなことが気になったのかわからないけれど、「こんなに伸びるっけ?!」と驚いてしまった。

スピッツ「猫になりたい」

 かつ、「き」の1音が引き伸ばされた結果として、次の小節が「みの腕の中」と妙な切れ方をする。「きー」の間延びした感じも相まって、どこかねっとりとした印象が出てくる。おそらく、「ねこにな」(8分)「りーたー」(4分)「いーきー」(2分)ときれいに減速して、また「みのうで」(8分)「のーなー」(4分)「かー」(2分)と減速しているのも原因になっている気がする。

 草野マサムネのボーカルは言葉数をつめこんで圧縮したり、発音を歪めてグルーヴを作るようなものではない。声色の演出もしっかりしているけれどそこまでおおげさではないし、プレーンな歌い方だ。曲自体もアクロバティックな譜割りを多用することはない(例えばMr.Childrenの楽曲でしばしば聴かれる圧縮感や、三連符を使った緩急のつけ方などを想起されたい)。しかしシンコペーションを多用して、ときに言葉の切れ目とリズムのアクセントが微妙にズレることで、淡々としたボーカルに絶妙なタメが生まれて身体にグッと働きかけてくる。歌い方やメッセージ、サウンド以上に、節回しが醸し出すこうした歌い手の身体性にロック的なダイナミズムを感じる。

 とはいえ「猫になりたい」は、もはやそんな感慨を超えてくるように聴こえる。いや、そんなことを言っても、こうした譜割り自体がそこまで特異というわけでもないだろうし、やはり草野マサムネの声が、あるいはスピッツというバンドが持つマジックということなのだろうか。

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