ビッケブランカ、『FATE』に閉じ込めたひと夏の出会いと別れ “運命”を歌い鳴らす幅広いサウンドメイク

ビッケブランカ『FATE』レビュー

 7月に“出会い/高揚感”をテーマにした『HEY』、8月に“別れ/哀愁感”をテーマにした『BYE』、テーマ性のある2つのEPを連続して発表したビッケブランカが、9月1日に4thアルバム『FATE』をリリースした。“出会い”と“別れ”を経て“運命”へと至る『FATE』は、一体どのようなアルバムに仕上がったのか。

 イントロの「Lack - Intro」の次に始まるのは、EP『BYE』に収録されていた「夢醒めSunset」。夏の終わりを惜しみ、過ぎ去る一瞬一瞬を愛おしむチルソングだ。日没の海辺の光景が浮かんでくるような情緒的なメロディとともに〈夏の夢醒めずまた sunset〉と歌うこの曲が、手を引くように夢の中へと誘っていく。

ビッケブランカ - 夢醒めSunset / Vicke Blanka - Yumesame Sunset

 EP『HEY』に収録された「蒼天のヴァンパイア」は、〈君〉と出会った喜びと、とろけるほどの想いを、日光を浴びると消えてしまう吸血鬼になぞらえて表現している。〈この機会にぜひ/どれだけ君のこと好きか/証明したいんだよ〉なんてフレーズは、ドキッとするほどストレートな愛情表現だ。飛び跳ねたくなるようなカラフルでメロディアスなこの曲を聴けば、タイトル通りの蒼天の清々しさと期待感に胸が膨らむ。

ビッケブランカ - 蒼天のヴァンパイア / Vicke Blanka - Soten No Vampire

 同じく『HEY』収録の「Death Dance」はがらりと雰囲気が変わり、不穏な空気が漂う。廃れた街にいる亡霊たちの様子を描いたこの曲から連想される光景は、おどろおどろしくも、そこには不思議な高揚感がある。なかなか外出がままならない世情だが、ひと気のなくなった夜の街では、人間の代わりに亡霊たちが熱狂の夜を過ごしているのかもしれない。そんな妄想を掻き立てられる、背徳感と抱き合わせの快感が漂うEDMだ。

 ヴァンパイアにゴーストとファンタジックな狂騒を駆け抜けた後に、現実に引き戻すようにやってくるのが切ない別れ。『BYE』に収録されていた「Divided」は、全編英詞のピアノベースのバラード。かけがえのない相手と別たれた苦しみ、そしていなくなってしまった人をまぶたの裏に思い描いては呼びかけるような切なさが漂う珠玉のバラードに仕上がっている。

 その後も、松本大(LAMP IN TERREN)とのコラボソングをビッケブランカのフルコーラスで再録した「Little Summer - Standalone」と、胸を突く切ない曲が畳みかけるように続く。

 そんな切ない思いをすくい上げるようにやってくるのが、新曲「オオカミなら」、そして「ポニーテイル」だ。「ポニーテイル」は、春風に吹かれるようなピュアな恋を、「オオカミなら」はちょっとした下心と臆病さが入り混じった不器用な姿を描いた恋の歌。どちらも本間昭光の編曲による明るく晴れやかなポップスで、別れの先にはまた新たな出会いが待っているという希望を示唆してくれているかのようだ。

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