ジョン・メイヤー、AOR~シティポップの歴史にも思いを馳せる『ソブ・ロック』を聞き解く
特徴的なのは、あの時代ならではのアナログシンセやゲートリバーブを効かせたドラムスの響き。それを耳にするだけで簡単にタイムスリップさせられるのだが、もちろん単にノスタルジックな音作りに走るのではなく、ときにはアコースティックな響きをメインにし、かと思えば古典的なポップスをモチーフにモダンな化粧を丹念に加えるなど、ソングライターとしての充実ぶりも良い。
また、そうしたサウンドアプローチの影響もあり、いまや世界規模で人気となっているシティポップや日本の80年代歌謡/ポップスにも通じる要素があることを感じさせるのも面白い。実際、ジョンは高校生の頃に短期交換留学で小田原に滞在していたこともあり(なので彼のライブでは、いつも日本語MCがたっぷりと飛び出す)、リアルタイムでその手の音に親しんでいたはずで、根底で同種の匂いを発散していたとしてもまったく不思議ではない。“ザ・80's”をテーマにしようと思い至った経緯の背景の深層には、そんな経験による意識があったのかもしれない。
軽いシャープなギターのカッティングや幾層にも重ねられたキーボードをバックに歌われる楽曲の美しさ、メロディを丹念に積み上げていく職人的なアプローチは山下達郎や角松敏生の諸作に通じるものがあり、もちろんアメリカで言えばマイケル・マクドナルドやケニー・ロギンスといったAOR、ヨットロックの主のような人たちの影をしっかりと見据えたトラックもあったりと、系譜の謎解きやサウンドの深堀りも楽しめる。
80年代、世界中の音楽シーンのメインストリームを席巻したサウンドだけに真正面から取り組むのは逆に難しい面もあるわけだが、恐れることなく素直に自身の利点と魅力を、そこにはめ込んでいけるのもジョンならでは。数年前にシングルリリースし、冒頭で書いたライブでも披露していた「ニュー・ライト」のような楽曲では歌を聴かせ、さらにはギターの絶妙なアンサンブル、泣かせにかかる「ホワイ・ユー・ノー・ラヴ・ミー」を始めとする美しい楽曲が揃い、AOR、シティポップの歴史にも思いを馳せるアルバム。さすが、ジョンならではの一枚と言える新作だ。
■リリース情報
ジョン・メイヤー
8thアルバム『ソブ・ロック』
発売中
[国内盤特典]
・高音質Blu-Spec CD仕様
・ジョン・メイヤー本人によるセルフ・ライナーノーツ封入
・初回仕様限定ポスター封入
SICP-31454/2,500円+税/歌詞・対訳・解説付き
<トラックリスト>
01. Last Train Home /ラスト・トレイン・ホーム
02. Shouldn't Matter But It Does /シュドゥント・マター・バット・イット・ダズ
03. New Light /ニュー・ライト
04. Why You No Love Me /ホワイ・ユー・ノー・ラヴ・ミー
05. Wild Blue /ワイルド・ブルー
06. Shot In The Dark /ショット・イン・ザ・ダーク
07. I Guess I Just Feel Like /アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク
08. Till The Right One Comes /ティル・ザ・ライト・ワン・カムズ
09. Carry Me Away /キャリー・ミー・アウェイ
10. All I Want To Be With You /オール・アイ・ウォント・トゥ・ビー・ウィズ・ユー