ジョン・メイヤー、AOR~シティポップの歴史にも思いを馳せる『ソブ・ロック』を聞き解く

ジョン・メイヤー『ソブ・ロック』を聞き解く

 それはそれは世界中の音楽ファンがうらやましがる光景だった。一昨年(2019年)4月10日、ジョン・メイヤー5年ぶりの来日公演となった日本武道館でのこと。ちょうど同時期に来日していたエド・シーラン(4年ぶりの新作『=(イコールズ)』が10月発売!)が突然ゲスト参加し、2人の共演が実現したのだった。しかも2曲。さらに、ジョンは自身の公演が終わった13日にエリック・クラプトンの東京公演に飛び入りし、「コカイン」をプレイして超満員の観客から大喝采を浴びた。

 音楽性もキャリアも違うエド・シーランとエリック・クラプトンがジョンを軸にすると、まったく違和感なくつながり、音楽的なサムシングを共有しているかのように思える。それこそがジョンならではの不思議な魅力であり、グレイトフル・デッド・ファミリーなど、名だたるレジェンドたちから愛される秘密の一端もそこらにあるとも言える。

 そんなジョンの8枚目となる最新作『ソブ・ロック』がリリースされたばかりだが、今作のアルバムテーマは、ずばり“ザ・80's”。

 「ノー・サッチ・シング」を始め「ユア・ボディ・イズ・ワンダーランド」やテイラー・スウィフトとコラボした「ハーフ・オブ・マイ・ハート」など、数々のヒット作を放ち、グラミー賞にも多数輝く最高のシンガーソングライターでありながら、しばしば現代の3大ギタリストの1人と挙げられるように、ギターの腕前も抜群。それだけに忘れられがちになるが、この人の真価は、やはり魅力的な歌声とポップでいて深い味わいの楽曲を書けるアーティストだということで、それらを改めて痛感させてくれるのが新作『ソブ・ロック』だ。

John Mayer - Last Train Home (Official Video)

 まず宣言したように、80年代西海岸系AORシンガー風なアルバムジャケットにニヤリとさせられるが、先行配信された「ラスト・トレイン・ホーム」のMVでも、ド派手なピンクのストラトキャスターを手にポーズをキメるなど、ディテールにこだわり尽くしたアプローチが楽しい。

 77年生まれのジョンにとって、MTV全盛時代でもあった80年代のLA周辺から生み出される華やかなシティサウンドは、原点の一つでもあり、それらを自己流に組み立て直すことこそチャレンジングと捉えたのだろう。洗練されたAOR、その流れを組む夏ならばこその“ヨットロック(Yacht Rock)”的なテイストを再現し、どのトラックからも涼やかな風が身体を通り抜けていくような感触が流れて心地よい。

John Mayer - Shot in the Dark (Official Video)

 そんな音作りの相棒に指名したのが、かつて『ボーン・アンド・レイズド』(2012年)などを一緒に制作した敏腕プロデューサー、ドン・ウォズで、あらゆるサウンドを知り尽くした彼と共に入念に練り上げ、元TOTOのグレッグ・フィリンゲインズ(Key)やレニー・カストロ(Per)、The Whoなどでもプレイするピノ・パラディーノ(Ba)、西海岸系の腕利きスタジオミュージシャンのアーロン・スターリング(Dr、ラリー・ゴールディングス(Key)といった名手たちが揃い、ジョンのイメージする音を立体的に編み上げていった。

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