Official髭男dism、アルバム『Editorial』がチャート首位に 広がるクリエイティビティを1作品として成立させる手腕

 もう一曲、アルバムのなかで気になったのは「Shower」だ。印象的なディテールを伴った、生活感のにじむ情景の描写(〈夕飯のおかずウォーズ〉ってすごいフレーズじゃないですか?)には、「アポトーシス」と通じる藤原の作詞の特徴を強く感じる。しかし、そうした生活感あふれる内容に比して、楽曲の構成はヒゲダンらしく一筋縄ではいかずドラマチック。アコギの弾き語りから始まってじわじわと展開を盛り上げミドルテンポのグルーヴィなサウンドに至ったかと思うと、まるでワンルームで宅録でもしたかのような空気感の弾き語りパートをはさみ、さらにはぐいっとヘヴィなサウンドに感情を爆発させたりもする。

Shower

 「アポトーシス」も「Shower」もなかなか長尺の部類の曲で、前者は6分29秒、後者は5分40秒。しかし長ったらしさを感じさせることはない。言葉数を尽くして一曲のなかにひとつの物語をつくりあげる藤原のソングライティングと、それを受け止めて、繊細な起伏をいかしつつも楽曲をドラマチックに仕上げるバンドとしての度量があってこそ映える長尺だ(ちなみに、「Laughter」も6分弱ある)。この調子でいくと、いずれ7分を超える曲を出してくるのではないか? という気さえしてくる。

 とはいえ、ファンキーなディスコブギー「ペンディング・マシーン」や、小笹大輔作詞・作曲でアレンジにmabanuaや有賀教平を招いたネオソウル調の「Bedroom Talk」、ファルセットが印象的なエレクトロニックなバラード「Lost In My Room」といった楽曲の確かなクオリティに惹かれたりもする。改めて、その引き出しの多彩さや、引き出しを新しく拡張しようという軽やかな貪欲さが面白い。あれもやろう、これもやろう、と広がるクリエイティビティを、有無を言わさず一曲として、あるいは一枚のアルバムとして成立させる力業。やはりヒゲダンの魅力はそこに尽きるのだと思う。

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