Official髭男dism、ライブパフォーマンスの凄み 「Cry Baby」が開いたバンドの新しい表現の扉
先日最新アルバム『Editorial』をリリースしたばかりのOfficial髭男dism。彼らのライブパフォーマンスに今注目が集まっている。その発端となっているのが、5月にデジタル配信リリースした「Cry Baby」でのパフォーマンス。これまでの彼らのイメージを覆すものだとして話題になっているのだ。
行進曲のようなイントロや、叩きつけるようなピアノの打鍵音、〈胸ぐらを掴まれて〉という歌い出しのパンチ力、ヘヴィーなギターサウンド、突き抜けるようなメロディの運び、大胆に展開していく曲調など、まさに彼らの新境地と言えるパワフルな作りをしたこの「Cry Baby」は、TVアニメ『東京リベンジャーズ』のオープニング主題歌として書き下ろされた。同アニメの原作者である和久井健との対談で、ボーカルの藤原聡が「ヒゲダンって、とてもポップな音楽をやっているイメージがあると思う」と話す通り、ヒゲダンと言えば、いわゆる王道のポップ路線の胸にグッとくる美しいメロディを歌い上げる作品の印象が強い。しかし同記事で藤原が「(主題歌を担当したことで)バンドの新しい扉が開けた気がしているんです」と明かすように、この曲には一聴してこれまでのヒゲダン作品には感じられなかった新鮮さがある。(※1)
彼らのその新たな方向性が、広く世間に知れ渡ったのが7月に放送された『2021 FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)でのパフォーマンスだ。メンバー全員が黒のジャケットに身を包み、アグレッシブな演奏に徹した約4分間。曲中には激しいシャウトも披露し、さながらメタルバンドのような重厚かつ力強い世界観を繰り広げていた。赤い照明に照らされた彼らからは怒りや闘争心といった感情が伝わってくる。ほとんど目を瞑りながら叫ぶようにして歌う藤原からは、ヒリヒリするような鋭い気迫を感じた。この“攻撃的”な彼らの姿に、今までとは違ったギャップを感じて驚いた視聴者も多いはずだ。
当初からヒゲダンは、J-POPとは異なる側面を携えていたバンドであった。もともと彼らの結成のきっかけの一つに、北欧デスメタルバンドのChildren of Bodomの存在がある(藤原とギターの小笹大輔が同バンドのことが好きで意気投合したという)。今曲で聴かれる激しいシャウトは、こうしたバンドからの影響が大きいだろう。そして藤原は、Deep PurpleやBon Jovi、Dream Theaterといったハードロック~メタル好きを公言している。この曲の重厚なサウンド面にはそうした音楽からの影響も感じられ、そういう意味でこの日のパフォーマンスは、彼らの本来的な嗜好の部分が表出した瞬間だったと言える。
さらに放送で話題を呼んだのが、その独特のメロディである。とりわけサビで登場する特徴的な転調部分は、「あそこは元は違うメロディだったんですが、ピアノを不意に間違えてしまったんです。でも、それが結果的にすごい転調の仕方をしていて面白くて」と、アクシデント的に生まれたことを明かしている(※2)。藤原のメロディーメイカーぶりは、2021年の今となっては誰もが首肯するところだろう。しかし今作では、それに加えて偶発的に起きた“間違い”を逆にクリエイティブ面に生かすという離れ業をやってのけている。つまり「Cry Baby」は、彼らが元来好んで聴いてきた音楽の(「Pretender」や「I LOVE…」などにはあまり出ていなかった)要素に加え、偶然の産物による斬新なアイデアを含んだ一曲でもあるのだ。それゆえファン以外からの反響も大きいのだろう。
また、同曲をライブで披露する際の演出にも注目したい。刺激的な照明や特殊効果をふんだんに用いた迫力満点の演出によって、作品の激しさがより一層増した世界が広がっている。藤原は人差し指を前に突き出し、客席に訴えかけるような力強い歌声で発声する。終始見せる強い眼差しも印象的。最後、歌い切った彼が一瞬だけ見せた鬼気迫る表情、そして大きく腕を広げながら虚空を見つめるその目に圧倒させられる。
この曲でイメージチェンジを成功させたヒゲダン。しかし20日に放送された『ミュージックステーション SUMMER FES』(テレビ朝日系)に出演した際には、新曲「アポトーシス」でまた新たな姿を見せていた。一転して白い衣装を着て優しく包み込むように歌うその表情には、誠実さや切なさが宿っていた。