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大江千里×ちゃんMARIが語り合う、ジャズの魅力と創作へのパワー「夢や希望が世の中を絶対に良くすると信じている」
いわゆるスタンダードとも、最近のジャズとも全然違うアプローチ(ちゃんMARI)
ーーさて、このたびリリースされた大江さんの新作『Letter to N.Y.』、ちゃんMARIさんはどんな感想を持ちましたか?
ちゃんMARI:すごく面白かったです。いわゆるスタンダードとも、最近のジャズとも全然違うアプローチなのかなと思いました。特にピアノが印象的ですよね。「こういう音もあるんだ」「こういう帯域に音を寄せてもいいんだな」みたいな驚きがあって、すごく新鮮でした。あと、リズムの感じが音色を含めて好きですね。今回、全てご自身で演奏されたんですよね。それもすごい!
大江:いやいや(笑)。Logic自体は三回くらいアップグレードしてるから、5年以上は使っているとは思うんですけど、普段はデモ作りくらいでしか使わないからすぐ忘れちゃうんですよ。ほんと、「60の手習い」というか。
ーー例えば「Out of Chaos」はどんなふうに作っていったのでしょうか。
大江:僕はエレクトリック・マイルスが好きで、ああいうテイストの曲を作ろうとまず決めてから、それっぽいフレーズを組み合わせてループを作っていくところからスタートしました。リズムの展開が3つくらいあるのだけど、結構ロックっぽいドラミングになったところで初めて僕のピアノが乗っかるような構成にしています。
やっているうちに、どんどん自分の内面に潜り込んでいくような感覚がありましたね。ベースを弾く時は自分の中の「ベーシスト」を呼び出して弾いてもらって「はい、お疲れ様。じゃあ次はトランペット」みたいな感じで、一人セッションを繰り広げながら仕上げていきました。あの曲は譜面に起こしていないので、もしライブでやることになったら自分で耳コピしないと出来ないですね(笑)。
ちゃんMARI:全て一人で作られているの、本当に尊敬します。私はまだその境地まで行けてなくて、全て一人でやろうとすると、自分がどんなフレーズを弾くのか予想できてしまうから面白くないし、「誰かと合わせたい!」ってなるんです。一度はやってみたいんですけどね。
大江:楽器を持ち帰るたびに、衣装とかメイクも変えて別人になり切るとフレーズも変わってくるかもしれないですよ。「今日はベースを弾くからサングラスをしてジーンズを履いて……」みたいに(笑)。
ちゃんMARI:それはめちゃめちゃ楽しそう(笑)。自分一人でも楽しんだり、驚いたり出来るような工夫が宅録には必要なのかもしれないですね。作業はコロナ禍で行なったんですか?
大江:今年の2月1日くらいから始めて、ちょっと他の作業があったのでひと月くらい中断して、4月の末には仕上げました。
ちゃんMARI:実質2カ月くらいですか。じゃあ、作業がめちゃくちゃ早いんですね。
大江:アイデアが湧いてくると、何かに憑依されたような感じになってしまって、一晩で4曲とか5曲とか作っちゃうんですよ。そうすると今度は1カ月くらい何にも出てこなくなったりするんだけど(笑)。かと思えば、たった1曲でも細かいディテールまで丸々頭に思い浮かぶこともあるんですよね。どうやったら1日1曲、コンスタントに書けるようになるんだろう。
ちゃんMARI:私は作曲のペースがとにかく遅いから、大江さんが羨ましいです(笑)。マイペース過ぎるので、「そろそろやらなきゃ本当にヤバイ」ってなってようやく重い腰を上げている感じなんですよね。
ただ、ピアノの前にいる時だけ曲ができるわけではないので、思いついたらメモを取るようにして、あとは未来の自分に託してしまうことに最近はしています。そういうメモがそこら中にたくさん転がっているので、それを拾い上げてまとめる作業の方が時間がかかるかもしれない。「今日は絶対1曲完成させる」と決めて、短時間で作った曲の方が後から聴いても良かったり、個人的に気に入っている曲になったりすることもあるから、一概には言えないんですけど。
大江:すごくよく分かります。
ーーパンデミックが続いていますが、お二人はどんな日々を過ごしていますか?
ちゃんMARI:ライブが中止になったり延期になったりしたこともありますが、結構人とは会っている方なのかなと思います。一時期はずっと一人だったんですけど、だんだんライブやレコーディングなどお仕事のお誘いも増えてきて。割と通常通りに戻りつつありますね。
今振り返ってみると、昨年の春くらいの時期は貴重な体験だったのかなと思っていて。その時は意識的に音楽から離れて、他のことをする時間も多かったんですよ。「今がチャンスだから曲作りたくさんするぞ!」と思ったんだけど全然ムリで(笑)。早々に気持ちを切り替え、映画を観たりゲームをしたり、本を読んだりしていました。普段は音楽をやっていて出来なかったことをやっていたらすごく楽しかったです。そのおかげで今は気持ちも安定していられるのだと思います。ニューヨークは今、どんな感じですか?
大江:もうみんなマスクも外すようになってきました。ただし公共機関とか室内とか、「ここではマスクをして、あそこではマスクを外す」みたいな感じで、何となく作られた「暗黙のルール」に従ってみんな動いていますね。ここまで進んだのは、やっぱりワクチンがかなり行き届いたからです。マディソンスクエアガーデンのような大きいホールでのライブは試験的に始まっていて、でも小さいジャズクラブなどは政府からの支援金がなかなか送られてこないので、再開できずにいるところも多い。ミュージシャンとしては、なんとも悩ましいしもどかしいです。ラスベガスのライブハウスとかでDJの演奏にみんなマスクせず騒いでいる映像などを見ると、さすがに「あれは大丈夫なんだろうか?」って不思議に感じますし。
ちゃんMARI:日本はまだワクチンが十分に行き届いていないから、マスクを外すのもいつになるんだろう? という感じです。大江さんご自身もライブの予定などありますか?
大江:今年は9月にミルウォーキーでのフェス、10月にミネアポリスでのライブが決まっていて、どうやって犬を連れて移動しようか考えているところです(笑)。そういう仕事がポツポツと増えてくると、自分の心も「よーし、また頑張るぞ」みたいに外向きになっていきますね。今回のアルバムは全てデジタルでレコーディングしているから、これを素材にしてトリオ編成のバンドで合わせたり、DJと一緒にセッションしたり、色々と面白い展開ができるんじゃないかなと思っています。
ちゃんMARI:めちゃめちゃ聴きたいです! 早くコロナが収束するといいですよね。
大江:でも僕、「世の中は絶対に良くなる」と思っているんです。コロナ禍でこんなに大変な思いをしながら、それでも創作や表現をやめずに続けていたり、夢や希望を抱いて前に進もうとしていたり、そういう人たちのパワーが世の中を絶対に良くすると信じていますね。
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・丸谷マナブのクリエイティブ術
■大江千里
リリース情報
『Letter to N.Y.』
発売:2021年7月21日(水)
価格:¥3,300(税込)
Blu-spec CD2仕様
<収録曲>
Letter to N.Y.
Good Morning
Out of Chaos
The Kindness of Strangers
The Street to the Establishment
Juke Box Love Song
A Werewolf in Brooklyn
Pedestrian
Staying at Ed's Place
Love
Togetherness
「Letter to N.Y.」特設サイト 110107.com/LTNY
大江千里note note.com/senrigarden
大江千里 Sony Music Publishing オフィシャルサイト https://smpj.jp/songwriters/senrioe/
■ちゃんMARI
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