インタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』
Moment Joonが選ぶ、忘れられない歌詞 自分自身の考えと向き合うきっかけ与える3曲
「正直、歌詞なんてどうでもよくて。今はメロディが必要」
――Momentさん自身のリリックに対する考え方についても伺っていきたいと思います。現在音楽学を勉強されているということですが、これは主に歌詞について研究されてるんですか?
Moment:そうですね。歌詞そのものについてはもちろんですが、その曲がどういう風に歌われてきたのかということも勉強しています。自分自身に影響を与えることはあるんですけど、音楽自体に影響を与えることはあまりないかもしれません。
――それはなぜですか?
Moment:例えば「研究」と言うものは、問題を設定してその問題に答えていくプロセスなんですね。でも「芸術」は、問題を答えるものじゃなくて問題そのものを見せると言うことですから。もちろん答えを自分なりに出して表現する人もいますが、僕にとっては葛藤したり矛盾したりする姿を見せることが「音楽」なんですよね。でも、研究で矛盾していると、それはダメなので(笑)。なので、そっちから影響を受けるというのはないのかな。
ーーMomentさんのリリックは立体的な構造になっていて表現もとても巧みですが、そのアイデアは特段意識せずに生まれているものということ?
Moment:もちろん計算して作っている曲もありますけど、音楽学で学んだことが直接影響を与えているわけではないと思います。
――HIPHOPって新しいスタイルが生まれていくものだと思いますが、Momentさんは自分の理想を形にするために新たにチャレンジしたいことはありますか?
Moment:みんなが“スタイル”と言うときに見逃してしまうのが、そのスタイルが象徴する“感情”だと思うんですよ。感情なしで、そのスタイルを左右することはあまり良くないですよね。なので、自分が持っている感情と共鳴するものであれば使っていきたいです。というか、もう「Apocalypse」で使ってますね。
――「Apocalypse」はドリルの要素がある楽曲ですよね。
Moment:「Apocalypse」は、ビートはドリルなんですけど、フローがドリルじゃないんです。ドリルは、「1」と「3」で韻を踏むのが一般的なんですけど、僕は「4」で韻を組むということをやっていて。それは本来ドリルっぽいラップの仕方ではないんですよね。でも、普段ドリルを聴きながら、自分の中で共鳴するものを感じていて、自分なりの形で取り入れたかったんです。
――なるほど。今フローの話が挙がりましたが、Momentさんにとって気持ちいいと感じるフローとはどういったものなのでしょうか?
Moment:僕が気持ちいいと感じるものは、プロデューサーによくないと言われるものばかりで(笑)。「お前ラップしたいのが見え過ぎ。それはわかるんだけど。で?」って(笑)。いい歌詞を書いても、それを歌う自分がラップのおいしさに寄りすぎていたりして、それってやりすぎるとあんまり良くないんですよね。
ーー今回挙げていただいた「CHON」でも該当するフレーズはありますか?
Moment:〈その陰謀は儲かる?〉というラインですね。最初はもっとラップっぽい口調で言っていたんです。それをプロデューサーが「ここはラップじゃなくて、もっと普通に言った方がいいんじゃないの?」って。確かに後から聴いてみるとその方が正解だったりするんですよね。でも歌う自分としてはあまり気持ちよくないんですよ。だって、リズムが崩れるから(笑)。ただ、現段階でアーティストとしてやるべきことは、自分だけの気持ちよさや達成感より「結果」を優先すること。その上で良い曲になる方法を見つけることだと思うんです。そしてそれを身に付ける。今はまだ身に付いていない感じがします。だからプロデューサーが言ってくれたりしないと自分では気付けない。いずれはプロデューサーがいなくても、自分で見えるようになったらいいなと思いますね。
ーーなるほど。ちなみにMomentさんが描いていきたいリリックとはどういったものなのでしょうか?
Moment:正直、歌詞なんてどうでもよくて。今はメロディが必要です。
ーーえ、そうなんですか!
Moment:でもそれは『Passport & Garcon』でやったことを全面的に否定する上で、と考えますけどね。『Passport & Garcon』のようなことをもう一度やろうとは思っていないので。次に作るアルバムは、商業芸術の匂いをプンプンさせるものをやりたい。
ーー王道を迷いなくやっていくということ?
Moment:それをもうちょっと歪んだ形で見せると思います。苦しんでいる自分が明るい何かを歌うときの、そういう一面を見せたいです。だから、『Passport & Garcon』が自分の素顔だとしたら、次は泣きながらの笑顔を見せたい。
――もう次作への欲望があるんですね。
Moment:近いところで見てくれている人は泣き顔が見えても、そうではない人たちにとっては「あいつ笑ってるな」って思われるような。そういうのが欲しいんですよね。とりあえずみんなの笑顔が見れるような、それでいてわかってる人にはわかってもらえるような。そういう曲、そういうアルバムを作りたいです。
■リリース情報
『Passport & Garcon DX』
発売中
¥2,500(税込)
<収録曲>
01.KIX / Limo
02.KACHITORU (feat. Young Coco)
03.IGUCHIDOU
04. KIMUCHI DE BINTA
05.HOME / CHON (feat. 蔡忠浩)
06.Losing My Love (feat. HUNGER)
07.MIZARU KIKAZARU IWAZARU
08.Seoul Doesn't Know You (feat. Justhis)
09.DOUKUTSU (feat. Gotch & Kiano Jones)
10.Hunting Season
11.Garcon & Babae In The Mirror
12.TENO HIRA with Japan
13.BAKA (Remix) [feat. あっこゴリラ & 鎮座DOPENESS]
14.Apocalypse
15.DISTANCE(feat. Gotch)
あの歌詞が忘れられない バックナンバー
第1回:崎山蒼志
第2回:佐藤千亜妃
第3回:ビッケブランカ
第4回:ヤバイTシャツ屋さん こやまたくや
第5回:yonige 牛丸ありさ
第6回:Mom