Moment Joonが選ぶ、忘れられない歌詞 自分自身の考えと向き合うきっかけ与える3曲

Moment Joonが選ぶ、忘れられない3曲の歌詞

 アーティストの心に残っている歌詞を聞いていくインタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』。本連載では選曲してもらった楽曲の歌詞の魅力を紐解きながら、アーティストの新たな一面を探っていく。第7回には、ラッパー・Moment Joonが登場。韓国出身で大阪在住の自身のことを“移民者”と表現する彼が選曲したのは、Power DNA「外人」、Moment Joon「CHON」、Big K.R.I.Tの「Bury Me In Gold」だった。Moment Joonが考える、この3曲の魅力とは。Moment Joonにとっての日本語ラップの在り方、そして今後目指していく音楽についても語ってくれた。(編集部)

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Moment Joonが選ぶ、忘れられない3曲の歌詞 「Power DNAはものすごくHIPHOP」

「Power DNAはものすごくHIPHOP」

――ご自身の曲含めラップミュージックを選定されていて、特に「外人」と「CHON」は通じるものを感じます。まずはPower DNAの「外人」からお話を伺えますか?

Moment:僕が曲で表現したいと思っていたことを、ここまで表現している日本のラッパーって今までいなかったんです。曲を聴いてこんなに共感できることもあまりなかったですし。彼もまた、移民者ラッパー、移民2世ラッパーの一人で……。僕は“外国人”という言葉があんまり好きじゃないんですけど、“外人”といわれる人々が感じている何かをここまで辛辣に表現した人は初めてだと思うんです。しかも僕とも表現方法が全然違う。僕も自分が経験したことを歌いますが、彼よりもうちょっと説明的にしていて。一方で彼はもっとダイレクトで生々しく言葉にしています。どっちが良い悪いはわからないですが、こういう曲は聴いたことがないですし、そこも希望が見えました。

Power DNA - 外人

――移民の人々が感じていることを率直に表現されていたと。

Moment:“外人”という言葉に、色々な使い方があるのはもちろん僕も知っています。全然悪気なく使う場合があることも知ってるんですよ。でもどうしても外国人は、この言葉に対して否定的な感情を抱いてしまう。この曲は、その理由を“外人”という言葉を連発しながら生々しく描いてるんです。「外国人への差別が悪い」とか「外人って言うのをやめて」って言ってるんじゃなくて、“外人”という言葉が使われるシチュエーションが何なのかというのを、すべてのラインで見せてくれてる。日本のラップはクリシェにやられていて、すでに出来上がってるスタイルをいかにうまくやれるかってことで評価されてますけど、本来であれば定期的にそれを壊そうとする人が出てくるはずなんですよ。でも、日本のラッパーでそういう人はいない。そうした中でも、Power DNAはものすごくHIPHOP。彼は彼自身のことをどう思っているかわからないですが、僕は彼に対してそう思っています。

――なるほど。では、Momentさん自身の楽曲「CHON」はいかがでしょうか。

Moment:「CHON」は確かに「外人」と繋がっている部分ももちろんありますけど、自分の曲だから挙げたいというのもありました(笑)。“チョン”って言葉は、日本社会では“外人”よりもまだタブーですよね。

Home / CHON

――差別的なニュアンスが絡んでいます。

Moment:ですよね。明日のライブで(ワンマンライブ『Garcon vs The World』の前日に取材)この曲をやるので歌ってみたんですけど、自分で書いた歌詞なのに恐ろしいなって思いました。

――恐ろしい?

Moment:感情というものをここまで呼び起こす歌詞なんだ、と感じたんです。例えば「これは間違ってる」「これは不当だ」「これは不条理だ」という感情を持っていたとしても、理性的に話したりする場面ってあるじゃないですか。でも、この曲ではそういうことは一切しなかった。自分の中で湧いてくるすべてを隠さずにいれたんですよ。

ーーそれはなぜですか?

Moment:怒りというのは本当はとても重要な感情で。それを表現することでポジティブになれることも絶対あると思うんです。でも、日本社会だと怒りを露わにすることってあまり良くは思われない。僕が外国人ってことも相まって「外国人は気が短い」「韓国人はすぐ怒る」とか言われることすらある。だからあえて感情を出したんです。でも、ここまで湧いてくるものなのかと……ちょっと恐ろしくもあります。

――そうなんですね。ご自身でも恐ろしく感じるほどに感情的な曲ということですが、歌っていて痛みを感じることもあるのでしょうか?

Moment:感情として共感できる人はいても経験レベルで共感できる人はいないので、辛くなります。歌いたくない。でも辛くてもこれを歌うことで、悲しいと感じる人はたくさんいる。だから辛くなったとしても、歌っていく必要がある思います。

――続いてBig K.R.I.Tの「Bury Me In Gold」はいかがですか?

Moment:僕は一応カトリックでクリスチャンなんですけど、無神論者に近いクリスチャンなんですよね。「Bury Me In Gold」は“死”について歌われていて、死後に自分が生きてるうちに持っていた「GOLD」に象徴されるすべてのものがどういう価値を持つのかと自問する曲なんです。この曲を聴いてるときは、自分の中でいつも避けている“死”や“神”に対する問いについて考えます。正直、あんまり楽しい曲じゃないんですよ。でも聴くと、その問いから逃げている自分に泣いてしまうんですよね。だからといって、すぐに自分自身の考え方や神に対して向き合うような勇気に繋がったりはしないんですけど……ただ、これはいつまでも無視できる問題ではないなと改めて気付かされます。

BIG K.R.I.T. - "Bury Me In Gold"

――それはとても興味深いです。Momentさんは死を意識したとき、ご自身のどこに価値をつけていこうと思いますか。

Moment:最近は他人のためになるということが、自分が生きていく上で一番大きな力だと思っています。でも怖いのが、どこかで「そんな俺すごいでしょ?」って感覚で生きてるのかもしれないとも感じるところなんですよね。その言葉の意味がどんどん大きくなっていくというか。「“移民”という言葉が日本社会にどう理解されるか」を投げかけることにとどまらず、さらに次の世代が移民として生きていけるような世界を作っていこうとしたり……言葉がどんどん大きくなってるんですよ。

――イメージが寄ってしまって、それに苦しめられる瞬間もありますか?

Moment:他人にそう見られるのも怖いですけど、それ以前に「俺が生きる意味はこれしかないんじゃないか」って思い始めている自分を感じるんです。でも僕はそういう器は持っていない。それが社会運動をする人々とアーティストの違いだとも思います。社会運動をする人たちは自分の人生を犠牲にしてでも他人のために生きれることができる。一方でアーティストは他人のために生きるより自分が感じたものを素直に表現する。自分の人生を削ることは、アーティストの本分ではないと僕は思っています。もちろん両方できる人もいると思うんですけど。僕は全然他人のために生きれる人間ではなくて、ものすごく利己的なんですよ。なのにアーティスト的な野望によって、言葉が大きくなり続けていて。それが少し怖いです。

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