ドラマ主題歌のあり方に変化? 『大豆田とわ子』『イチケイのカラス』『ナイト・ドクター』……フジテレビが仕掛ける新たな試み
『東京ラブストーリー』の小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」、『101回目のプロポーズ』のCHAGE and ASKA「SAY YES」、『ロングバケーション』の久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG with NAOMI CAMPBELL」と、フジテレビのドラマ主題歌から生まれた名曲は数知れず。80年代後半から90年代にかけて、ドラマは作品自体のヒットはもとより、楽曲のヒットにも一役買っていた。
いわば、人気ドラマの主題歌に起用されることがヒットの近道でもあった。当然、名だたるアーティストとのタイアップが続くようになり、「ドラマ主題歌に起用される=人気アーティスト」の図式が目立つように。主題歌を手がけることが、アーティストにとっての試金石ともなっていた。
しかし、音楽の視聴環境が変わり、インターネットが普及するにつれ次第にドラマ主題歌のヒットの法則は鳴りを潜めていく。一部例外はあるものの、ヒット曲はSNSなどの口コミやYouTubeの再生回数によって生まれる時代へ移った。ドラマと主題歌の関係性が変わったのではない。視聴者側の環境が変わったのだ。
とは言え、ドラマから主題歌が消えるかといえば、そうはならないのが面白いところ。前述の『イチケイのカラス』のWGB、『大豆田とわ子と三人の元夫』のSTUTS & 松たか子 with 3exesのような新たな取り組みで、活路を見出そうとしている。
アーティストに匿名性を持たせたり、毎回演出を変えてみたり。これらは一見すると話題作りとも思える。もちろん、そういった一面があるのは否定できないし、実際にヒットに貢献するものには違いない。しかしただの目新しさではいずれ飽きられてしまう。そこにトレンドを意識した音楽的な魅力があってこそ、SNS全盛の時代には一層の広がりが生まれる。WGBの「Starlight」は和楽器バンドのサウンド面での新機軸であったし、STUTS & 松たか子 with 3exesの「Presence」ではドラマとのリンクもありつつ気鋭のラッパーが週替わりで登場し、音楽ファンにも見逃せないものになっていた。ネームバリューにこだわらず、単純に良い音楽を起用したい意図と、ドラマと音楽の新たなコラボレーションのかたちを模索する姿勢が、こうした流れを生み出しているのかもしれない。
そして、7月クールの月9度ドラマ『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)は、さらにチャレンジングな試みが始まる。全編通して流れる主題歌をなくし、5組のアーティストが、ドラマの“オリジナルナンバー”を手がけるのだ。抜擢されたのは、yama、eill、琴音、Tani Yuuki、三浦風雅らいずれも音楽シーンで注目の新世代アーティストたち。プロデュースにはこれまでYUKIやFUNKY MONKEY BABYSなど様々なアーティストの音楽制作・プロデュースを手掛けた田中隼人が携わる。
企画の意図について野田悠介プロデューサーは「年齢も性格も価値観も違うバラバラな5人の、医師としての成長や葛藤、人としての悩みや喜びは1曲では表現しきれない。群像劇として描く本作のさまざまな側面、感情をありのまま伝えたいと思い、主題歌という概念を覆し、このプロジェクトを立ち上げました」とコメント。ついに主題歌という概念すら飛び越え、ドラマと楽曲の親和性を高めようとする動きが現れてきた。ドラマ主題歌のあり方はネクストステージへ。この流れが他局、ひいてはドラマ界全体に波及していくのか、注目していきたい。
■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。