山下大輝、卓越したハイトーンボイスを武器にアーティストデビュー 豊かな表現力で魅せる“実力派シンガーとしての姿”

山下大輝、卓越したハイトーンボイス

 そして、ボーカルはただ高いキーを出すだけではなく、表現力の豊かさも求められるが、本作ではその片鱗を窺い知ることができる。このEPの最後を締める、清竜人が作詞・作曲・編曲を務めた「誰かを」を聴いてみよう。

 鍵盤と山下のボーカルからスタートする序盤、ここまでの楽曲で明るかった山下の声色は、リスナーが抱えているであろう心のセンチメンタルな部分をなぞるように、奥行きがありつつ、ソフトタッチなボーカルで始まる。

 サビを越えて終盤にいくにつれて、厚みのあるコーラスも重なって、少しずつ強く、伸びやかな声色へと変化していくのがわかる。最後の約30秒では、ドラムス・ストリングス・ピアノそれぞれにエコーがかかり、シューゲイザー気味なサウンドの波を生み出す中で、山下は「ラララ」と声をあわせ、ともに溶け合っていくのだ。

 終盤に向かって強くなっていく山下の声は、〈一人じゃない〉という気持ちをもった人に投げかけられる。それは、「(僕や君は)強いのだ」という断定のように響くかもしれないが、こうしてサウンドのなかに溶け合っていく様をみれば、むしろ「(僕も君も)強くありたい」「(僕も君も)強いはずだ」という願いにも聴こえる。だからこそこの曲は、センチメンタルさ溢れる曲としても、タフなメッセージを届ける曲としても、どちらにとってもリスナーの心の深くに届いていくのだ。

 歌詞、曲構成やサウンドスケープ、ボーカルの深みから生まれたドラマティックなエンディング曲。どちらとも取れるようなニュアンスを残した絶妙なバランスは、清竜人のバランス感覚と山下のボーカルセンスがなければ生まれなかったであろう。

 宮野真守、蒼井翔太、斉藤壮馬、先日には江口拓也もデビューするなど、精力的に音楽活動を続ける本格派の男性声優が年々増え続けている中にあって、見事なデビュー作を生み出した山下大輝。彼のクリアな歌声とボーカルセンスが、どこまで響いていくか。これからに期待だ。

※1:https://seimaga.jp/archives/animatetimes/item10.html

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
Twitter(@kkkkssssnnnn)

■CDリリース情報
山下大輝 1st EP『hear me?』
2021年6月9日(水)発売
・初回限定盤(CD+DVD)¥3,500(税込)
・通常盤(CD)¥2,200(税込)

<CD>
01. 列偶像
作詞・作曲:渡辺翔 編曲:Naoki Itai
02. Tail
作詞:松原さらり 作曲・編曲:南田健吾
03. Hello
作詞・作曲・編曲:佐伯youthK
04. I’m in love
作詞:Kanata Okajima 作曲・編曲:白戸佑輔
05. 誰かを
作詞・作曲・編曲:清竜人

<DVD> ※初回限定盤のみ
・「Tail」MV
・「Tail」MVスペシャルメイキング映像

山下大輝 MUSIC OFFICIAL

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