赤い公園が踏み出した新たなスタートライン 素晴らしい楽曲と幸せな空気に満ち溢れたラストライブレポ
赤い公園が2021年5月28日をもって解散した。「じゃ、みんな解散で! 解散!」ーー石野理子(Vo)が最後にステージ上で告げた言葉はあまりにも潔かった。結成から約12年。メンバーが、人数が変わっても、あの日と変わらない赤い公園がそこにはいた。
ライブ終盤、メンバーが一人ひとり挨拶をしていくMCで歌川菜穂(Dr)は、バンドのこれまでを振り返り「いろいろあった」とつぶやく。2017年、佐藤千明(Vo)の脱退。そして、2020年10月、津野米咲(Gt)の逝去。多くのバンドが紆余曲折を経て活動しているとはいえ、それでも赤い公園はいろいろがありすぎた。赤い公園のギタリストであり、楽曲のソングライティングとプロデュースを手がけるバンドの中心メンバーだった津野。「赤い公園には津野米咲という存在がいないと意味がない。みんなの納得するところはそこだったので、それだったら赤い公園を続けることはできない」という理由から、今年3月に赤い公園は解散を発表。今回の中野サンプラザホールでの『赤い公園 THE LAST LIVE「THE PARK」』がラストライブとなった。
有観客のワンマンライブとしては2019年12月の『FUYU TOUR 2019 “Yo-Ho”』ぶり。その後、赤い公園は2020年4月にアルバム『THE PARK』をリリース。全14公演を巡る『赤い公園 「SHOKA TOUR 2020 “THE PARK”」』を開催予定であったが、コロナ禍の影響を受け中止に。同年8月に赤い公園のホーム・立川BABELから行った配信ライブ『SHOKA TOUR 2020 “THE PARK” ~0日目~』が津野にとっての最後のステージとなった。今回の公演は、ラストライブとしての比重の方が大きいことは間違いないが、同時に津野を含めたメンバー4人でようやく『THE PARK』のツアー初日を迎えられるという思いもあったはず。図らずして、2021年の初夏にその開催のタイミングはやってきた。
2時間30分余りに、メドレーを含む全29曲を詰め込んだセットリスト。「全曲やろう」「CDの中から1曲ずつを絶対にやろう」といった贅沢かつ大胆な案もあったようだが、結果的に新旧の楽曲を織り交ぜたバランスの取れた構成となった。ライブの幕を開けた「ランドリー」と2曲目の「消えない」はその配置によって対となる楽曲として意味を成す。メジャーデビューミニアルバム『ランドリーで漂白を』のリード曲である「ランドリー」は、戦隊ヒーローの登場シーンを彷彿とさせるMVでその異質なバンドのデビューを世に知らしめた作品。一方で「消えない」は新たなボーカリストとして石野がバンドへと運命的に合流し、〈こんな所で消えない/消さない〉と共に誓い合った狼煙のような楽曲。つまり、バンドにとっての2つのスタートラインをラストライブの開幕に据えたわけだ。
そこからは、『THE PARK』から「ジャンキー」「Mutant」「紺に花」、津野もバンドメンバーとして参加していた「VIVA LA J-ROCK ANTHEMS」でアイナ・ジ・エンドがリスペクトを込めてカバーしたことでも記憶に新しい「Canvas」と続く。特に「紺に花」は、『“THE PARK” ~0日目~』や『ビバラ!オンライン2020』でも披露していない、これが最初で最後のパフォーマンスとなった。津野の全開のポップネスを帯びた「紺に花」のテーマにあるのは「さくらの花」。サビで石野が手の平をクルクルと回転させると、会場には幾千の花びらが華麗に舞う。堀向彦輝 a.k.a. hico(Key)のキーボードも、煌びやかなサウンドに華を添えていた。
この日、堀向のほかにもサポートメンバーとしてBase Ball Bearの小出祐介(Gt)、tricotのキダ モティフォ(Gt)が参加した。それぞれが赤い公園とも、津野とも関わりの深かったメンバーであり、プレイヤーでもある。それは同時に津野のプレイヤースキルを浮かび上がらせることにも成功していた。ライブではギターだけでなくキーボードを演奏することもあった津野。ざっくりと言ってしまえば、ポップスとオルタナティブ、『ランドリーで漂白を』と対をなす『透明なのか黒なのか』のような関係性に、「絶対的な関係」から始まる次のブロックはあった。
「消えない」で小出の小気味いいギターカッティングが炸裂していたのに対し、キダは「透明」で歪んだギターを轟かせる。特にイントロでギターの弦を強く叩く姿やラスサビに向けてのコーラスは、思わず津野の姿を重ねてしまう気迫に満ちた演奏であった(tricotのYouTubeチャンネルにはキダがギターボーカルを務める「透明」がアップされている)。さらには「風が知ってる」「交信」のアウトロで轟音ギターをかき鳴らすキダ。「今更」「のぞき穴」「西東京」「ナンバーシックス」と小出とキダが交互にギターを担当し、最後に「闇夜に提灯」でツインギターとなったメドレーは、その対照的かつ多彩な津野の音楽性を映し出していた。