赤い公園が踏み出した新たなスタートライン 素晴らしい楽曲と幸せな空気に満ち溢れたラストライブレポ

赤い公園、ラストライブレポ

 ライブ中盤には石野、藤本ひかり(Ba)、歌川の3人だけのセッションも披露された。ユニット名は「さんこいち」。石野発案による、歌川が言う“ギャルみ”のあるユニット名だ。ステージ上には津野が高校時代にバイト代を貯めて購入した白のストラトキャスター、通称「白田トミ子」も見守っている。選ばれた「衛星」「Highway Cabriolet」「Yo-Ho」の3曲は、石野が加入後に発表された楽曲。シンプルなアコースティック編成はかつての「かよわき乙女Ver.」のようであり、下北沢GARAGEからYouTube Liveで配信された向かい合わせでのセッションも思い出される。特に「Yo-Ho」は『FUYU TOUR 2019 “Yo-Ho”』を経て、ライブで毎公演アップデートを重ねてきた自由度の高い楽曲。石野はビートを刻むシンセパッドとタンバリン、藤本はベース、歌川はキーボード、そして観客もクラップで参加。赤い公園のクリエイティビティとしては、「消えない」とも「透明」とも異なる、新たな基軸にあった(同じ軸上にあるのは「sea」「chiffon girl feat. Pecori (ODD Foot Works)」の2曲だろう)。

藤本ひかり(Ba)
藤本ひかり(Ba)

 『VIVA LA ROCK 2018』で赤い公園の新ボーカルとしてファンの前に石野が登場してからおよそ3年。ボーカルが変わるという大きなプレッシャーの中、石野は「毎回のライブで成長していかないといけない」という思いがあったと語っているが、『Re: First One Man Tour 2019』さらに『FUYU TOUR 2019 “Yo-Ho”』を経ての石野の飛躍は、誰もが認めるものであった。息を呑むステージ上での凜とした佇まい、赤い公園の楽曲を自分のものとして歌いこなす求心力。そんな石野の存在に感化されて、津野も創作意欲が湧き出ていたと公式サイトのインタビューで語っている。

 「KOIKI」「NOW ON AIR」「yumeutsutsu」とライブチューンが並ぶ本編ラストの1曲には「夜の公園」も据えられた。『THE PARK』収録曲でリリックビデオも制作された、片想いの女性の心情を綴ったラブソング。これまでも「今更」で勢いよくエアギターをかき鳴らし、「yumeutsutsu」でハイキックをぶちかますなど、多彩なモーションで感情を爆発させてきた石野だが、この「夜の公園」では少しはにかみながらも照れくさそうに〈私じゃ駄目ですか〉と左手を差し伸べる。その楽曲の主人公としての伸びやかな歌声も相まって、今の石野の最たる歌唱表現が感じられた。

歌川菜穂(Dr)
歌川菜穂(Dr)

 赤い公園にとって最後のシングル表題曲となった「pray」はライブの折り返しに、「オレンジ」は本編ラストに置かれた。「消えない」や「yumeutsutsu」を赤い公園自体が主人公の楽曲と捉えるならば、「オレンジ」と「pray」もまた、赤い公園を、津野米咲を思い浮かべる楽曲である。

〈あの日誓い合った約束はもう 忘れても構わない/最後くらいかっこつけたい 滲んだオレンジ/振り返らないで/沈んだオレンジ 振り返ってよ〉(「オレンジ」)

〈I pray for you それじゃ、またね/今日もどこかで笑ってるかな/君の旅が/どうか美しくありますように〉(「pray」)

 「pray」は哀愁を帯びた美しいメロディ、「オレンジ」はバンドサウンドとしての熱に切なさが同居した津野にしか描けないアッパーチューンだ。「pray」ではイントロを担うキーボード、「オレンジ」では優しい木琴の音色を奏でる堀向がそれぞれキーマンとして光っていた。「pray」と「オレンジ」の置かれた曲順からもこの2曲が赤い公園にとって大切な楽曲であることが伝わってくるが、徐々に熱を帯びていく「オレンジ」のバンドサウンドからは、新たなステップを踏み出すメンバーそれぞれの思いも透けて見えた。

 石野が「もっと笑いたいもんね」と呼びかけたアンコールは、驚くほどにあっけらかんとした前向きな時間だった。赤い公園というエンブレムのもと〈一人じゃないのさ〉と叫ぶ「KILT OF MANTRA」、ただただ〈しあわせ〉に溢れた「黄色い花」、前傾姿勢で未来へと全力疾走していく「凛々爛々」。ラストライブを楽しい時間で終わりたいという思い、そして赤い公園として津野が残した楽曲の素晴らしさを一人ひとりが両手で抱きしめるかのような、幸せな空気が会場には満ち溢れていた。

 「僕はバンドとかロックは継承されていくものだと思う。魂や精神は脈々と引き継がれていく」ーーそう話したのは昨年末に開催する予定だった『COUNTDOWN JAPAN』のリハーサルも含め、足掛け半年を赤い公園と共に過ごしたもう一人のメンバーとも言うべき小出だった。魂の継承については、石野の存在自体が確たる証拠であり、赤い公園を見ていた全員がこの3年間における目撃者である。互いにリスペクトし合ってリスタートした赤い公園で、石野は楽曲の意思を背負い、主人公の一人としてステージの真ん中に立ち続けてきた。あの日と変わらず、そこにあり続けたのは赤い公園としての魂だ。

 藤本は本編最後のMCで「生きている人たちは物語のページを捲ることもできるし、書き足すことも、燃やしちゃうこともできるから。2人もなんでもできるよ」と石野と歌川に話した。これからもそれぞれの人生は続いていく。

 滲んだオレンジを背に、新たなスタートラインを踏み出す。進む道が違っても、一人ではない。心の中にはいつだって赤い公園がいる。

赤い公園公式サイト

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