『リコカツ』主題歌が視聴者に与える印象とは? 米津玄師の楽曲がドラマで果たしてきた役割
さて、米津がドラマ主題歌を手掛けるのは今回で4回目だ。主題歌は放送時間の終盤に流れることが多い。『アンナチュラル』の主題歌「Lemon」は、登場人物の死にどういった背景があったのかを描いたシーンに流れることが多く、遺された者の悲しみを歌う楽曲の内容が視聴者の記憶に刻まれた。『ノーサイド・ゲーム』の主題歌「馬と鹿」は、ひとつの物事に熱中することで得られる歓喜と祝福の瞬間を形にしたような曲。その熱量で以って、左遷された男とラグビーチームの再起を描いたドラマと並び立った。警視庁機動捜査隊の活躍を描いた『MIU404』の主題歌「感電」では、ブラスサウンドを導入することで、往年の刑事もの主題歌を彷彿とさせる雰囲気に。小粋なポップさは主人公2人のキャラクターを想像させるもので、ヘビーな題材を扱うことの多いストーリーのラストに爽快な後味を残してくれた。
では、『リコカツ』における「Pale Blue」はどうだろうか。視聴者目線で言うと、このドラマはとにかくヤキモキすることが多い。なぜかというと、主人公2人がなかなか素直になれないうえに、2人の間に立ちはだかるハードルがいくつもあるから。例えば、それぞれの両親も離婚を考えているという“全員離婚家族”状態ゆえに次々生まれるトラブルもそう。紘一に想いを寄せる自衛官・一ノ瀬純(田辺桃子)や、咲の元恋人で弁護士の青山貴也(高橋光臣)、編集者である咲の担当作家・水無月連(白洲迅)といった恋敵の存在もそう。特に第7話のラストは、純が紘一に告白し、貴也が咲を抱きしめ、連が紘一に宣戦布告し……と大波乱だった。
そんななか、「Pale Blue」が物語のこんがらがった部分を解いてくれている気がする。第7話ラストにおける恋敵3人の動きはすべて「Pale Blue」が流れているときに起きた出来事。それだけ情報量が詰まっていた一方、間の約2分間にはほとんど台詞がなかった。それは、「Pale Blue」の歌詞にある言葉がそのまま咲と紘一の心の中にあるものだったからであり、これ以上言葉を盛る必要がなかったからではないだろうか。本心とは逆のことをつい勢いで言ってしまったり、本当の気持ちを言葉にできなかったりする咲と紘一の代弁者のような「Pale Blue」。それにはまさしく、紡ぐように話す人、米津玄師だからこそ作れた主題歌であろう。
(※1、2)https://www.tbs.co.jp/rikokatsu_tbs/music/
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。