『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』クロスレビューVol.8:福岡晃子「この夢の続きへ」

「この夢の続きへ」

 LOSTAGEとチャットモンチーは絡むことがほとんどなかったから、勝手に別々の時代を走ってると思い込んでいた。あの渦中にいた時代背景も含め、この本を読んで改めて同世代なんだと気づく。物語と並行する日本の音楽史の変容に大きく頷いたり、苦い思い出も蘇ったりした。

 五味兄ちゃんの抱いていた「音楽を売ること」に対して懐疑的な思考になった時期もやはり同じだった。些細なことに疑問が沸き、担当者を困らせた。「田舎者だから何も分からないんだね」の空気に呑まれていた。リスナーに不義理なことをしてはいないか、何度も自分たちの足跡を振り返り、確かめた。

 はたまた、これはやりたくないけど、やらなければ関わってくれたスタッフに迷惑がかかってしまうという場面に何度も出くわせば、経験を重ねるごとに自分の懐疑心にヤスリをかけるようにもなった。

 悪かったことはひとつもないと思う。正直、バンドを扱いやすく飼い慣らそうとした人たちの顔は一生忘れないけど、それがロックの糧になったのも大きな事実だった。

 だから改めて思う。五味兄ちゃん、すごいわ。そんな生き方、やりたいと思ってもできんし、思ったことすらなかったよ。

 世の中のせいにすんな、自分に嘘つくやつの音楽なんか、誰が聴くんや。ってこの本から聴こえた気がした。

 2018年のおわり、五味兄ちゃんが徳島に来てくれた。わたしがソロをやるかどうかをウジウジ悩んでいたら

「そんなん、やりたいからやるんやろ。そういうもんやん」

 シンプルすぎる。だからこそ、兄ちゃんに言われると胸が痛かった。その直後に出たLOSTAGEの新曲が最高で、やっぱりそこも格好良すぎで悔しかった。(こっそりカバーしたけど、全然あかんかったわ……)

 LOSTAGEは解散してないし、完結していない。まだまだ、美しい夢を見てる。それがリスナーにとって何より美しい光景だ。また、ライブキッズにとっても3人は道標になる。拓人さんのギターに惚れてその音を浴びたくて最前列に行き、岩城さんのプレイに憧れて楽器屋でドラムスティックを手に取ってしまうだろう。そして何より音楽を信じ、時流を疑い、自分の現在地を常に把握するベースボーカルの五味兄。この3人の美しい夢がずっと続いてくれるなら、いまのこの世の中でさえ、悪くないのかもと思う。

 最後にひとつだけ。

 久しぶりに五味兄ちゃんにLINEしようと思ったら、トーク退出してるやん。

 たぶん兄ちゃんは

「必要だったらどうにか連絡とれるやろ」

 って言うんだろうな。

■福岡晃子

チャットモンチー済/作詞作曲家/イベントスペースOLUYO社長https://oluyo2016.wixsite.com/tokushima
YouTubeチャンネル https://youtube.com/channel/UCudaxme1AtRRmLhu3Y_mkiQ

■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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