『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』レビューVol.4:加藤鶴一(堺ファンダンゴ)「転ぼうとも人生は面白い」

『ロストエイジ20年史』堺ファンダンゴ代表レビュー

 この本は、奈良を拠点として全国に発信し続けているロストエイジというバンドの歴史本だけに留まらない。この本には、今のこの混沌とした世の中に生きている全ての人へのメッセージが込められている。僕には「人生は面白い」と言っているように聞こえた。だから、ロストエイジという存在を知らない人にも手に取っていただきたい一冊である。

 ロストエイジ20年史というぐらいだから、僕が彼らと出会ってからかなりの年月が経っているみたいだ。だが、それは時間軸だけの話であり、実際はそうじゃない。僕の体感からすれば、いつまで経っても、いつ会っても、つい最近出会ったエゲツなくカッコいい奈良のバンドである。その感じは出会った頃から、今まで全く変わらない。なぜ変わらないのか。それはこの本を読んで初めて気付いたことであるが、彼らは自分達の生き様をより明確なものにしようと、常に模索し続けているからなのだと思う。その度々に彼らの舵の取り方が変わるが、それがまた僕にとっては面白くて、斬新で、理にかなっていて、楽しい。そして、その度に新しい曲が生まれ、ステージも変わっていく。だから、いつ会っても出会った頃の感じでいられるのだろう。頻繁には会わないが、たまに会う。いや、会いたくなる。その度に必ず何らかの刺激をもらう。そして、それをまた欲するが為に僕は彼らに連絡する。信頼できる、尊敬できる、その感じが微妙な距離感で成り立っているのだと思う。

 僕は大阪・十三にあったライブハウス「ファンダンゴ」で働いていた。そこでロストエイジと出会った。十三ファンダンゴは2019年7月で閉店してしまったのだが、その32年の歴史の中で30年もの間、僕は十三という繁華街にお世話になった。閉店後の移転先を色々と探してはみたのだが、十三やその近隣の繁華街の物件にはどこもピンと来るものがなかった。今までと同じような景色の中で同じようなことをやる気がしなかったのだ。今までと同じような感じで続けるぐらいなら、いっそ潰してしまおうかとも思っていた。そんな時に僕の生まれ育った町であり、ずっと生活している大阪・堺で最高の物件が見つかったのである。繁華街のごちゃごちゃした雰囲気には程遠い、ゆっくりと時間が流れる港町の一画だった。ここが今の僕にとっては最高の場所である。僕は焦らずゆっくりと、これからは「堺ファンダンゴ」という新たな場所で生きていこうと思っている。それは五味君が生まれ育った奈良に「THROAT RECORDS」という大切な場所を構えたのと少し似ているのかもしれない。

 どう転ぼうとも人生は面白い。

 もしかしたら、僕も彼らと似たような夢を見続けているのかもしれない。

■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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THROAT RECORDS オンラインストア
ファンダンゴ HP:https://www.fandango-go.com/jp/jindex.htm

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