『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』クロスレビューVol.7:劔樹人「仲間を増やし続ける旅の物語」
私はLOSTAGE 五味岳久と同じ学年である。彼は奈良、私は大阪で、音楽活動を始めたのも同じような時期だ。
初めて会ったのは2002年で、お互い21〜22歳だった。心斎橋のPIPE69というライブハウスでの対バンだ。
今でこそ、無精髭のぶっきらぼうな中年男性然とした五味の岳ちゃんであるが、当時は前髪の長い、繊細そうな若者であり、私は、「あー、前髪で顔の見えない系の、そういうバンドね」と思った覚えがある。特に会話はしなかった。この本を読んでいただけると分かるように、あの頃の彼はだいぶ尖っていたようだが、こちらも負けじと尖っていた。なんせ、ギターレスでメンバーに大太鼓がいるノイズバンドだったのだ。そんな異端者でも誰にも負けたくないと思っていたし、音楽で生活できるようになりたいと思っていた。当時の関西はそういう危険なバンドで溢れていた。自分だけの、このやり方でやってやる。何をやるかはちょっとよく分からない。みんなそういうぼんやりした夢を見ていた。
再会は私が上京した2008年頃、東京のライブハウスだった。私は幾度かバンドの夢破れ、ライブハウスのバイト。向こうはメジャーと契約していながらもままならぬ苦節を重ねている時である。当時のLOSTAGEには古くからの友人であったギターの中野くんがいたのもあり、仲良くなった。そこからはずっと、奈良と東京とではあるが、彼らの動向を強いシンパシーを持って見守ってきた。
中野くんが辞める時の変な空気になったライブも観た。五味くんが東京でレコーディングをしているというので遊びに行ったこともある。ネットで良さそうなアンプが売りに出てるのを教えてもらって買ったこともあった。五味アイコンブームに乗って自分も描いてもらったし、例の音源流出事件もリアルタイムで見ていれば、2012年のフジロックもLOSTAGEを観るために行ったようなものだ。そして東京に来てからやっているバンドで何度も対バンし、彼らの企画にも呼んでもらった。
この本で語られるのは、そんな風に私も部分的に見ていた、LOSTAGEの日々。つまずき、もがいた先で、自分らしい音楽と生活を少しずつ手にしてゆく物語である。
同じように、音楽で生活する夢を見続けてきた私にとってそれは、「自分もこうでありたかった」と憧れるひとつの在り方だ。
LOSTAGEのように、ひとつのバンドを同じメンバーと続けてみたかったし、地元に根ざした活動もしてみたかった。それはもう叶わぬ話だ。
同じように、もっと売れて成功しているようなメジャーなミュージシャンですら、LOSTAGEの在り方に憧れる部分があるはずだ。
他人からは成功者に見えても、誰もが「自分らしさ」を見つけているわけじゃない。だから憧れる。ヒントになる。本当に今が正しいのか悩み、「自分なりに一歩を踏み出してみよう」と、勇気が出る。そして、まだまだ道は途中なのだと前を向くことができる。そういう本だと思う。
また、奈良を動かず、「孤高のバンド」とも表現されることの多いLOSTAGEは一見、関わる人を減らし、自分たちだけで音楽を作り、自分たちだけで完結する生活を選んでいるようにも見える。
しかし、決してそんなことはない。むしろそれは、仲間を増やし続ける旅の物語だ。
強いわけじゃない。ひとり一人は弱いから、少しずつ寄り添う。19年前はPIPE69で会話すらしなかった私も、いつしかそこにちょっと寄り添うことになった。
それはきっと、LOSTAGEのライブに行ったことのある人も、CDを買ったことのある人も、これから知ることになる人にも言えることだ。
だから私はこの本を、まだLOSTAGEを知らない人に薦めたいと思っているのである。
■劔樹人
1979年5月7日生まれ、新潟県出身。主夫業をしながら漫画家、あらかじめ決められた恋人たちへや和田彩花のベーシストとして活動。最新コミックは『敗者復活のうた。』(双葉社)。2021年に『あの頃。男子かしまし物語』が松坂桃李主演で映画化されている。
■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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あらかじめ決められた恋人たちへ HP:http://arakajime.main.jp/
劔樹人 Twitter(@tsurugimikito)